「なんかこういう思考実験なかったっけ? ひよこの」
「組成が同一であっても喪われている情報がある、とかだっけ? 確かに似ていそうな気はする……かな」
「待って、もしかして神秘が一切観測されていないのってさ……」
「……変な死体のようなもの?」
「はい。死体と呼ぶには奇妙な部分があまりに多く……詳しくは追って話しますが」
「とはいえ裏の奴だろう? 神秘が絡む以上、不審死程度何もおかしくは……」
「そこなんです。
神秘が絡んでいるなら『そういうもの』と納得はできます。
ただ……いくらなんでも神秘の関与が全く感じられないのは異常と思いまして」
「完全に科学的な手法で殺された? なら表に回す案件じゃ……」
「と言うにもおかしい部分がある。死因となった外傷なし、おそらく生前の姿をそのまま象っている。
精巧な肉製の模型、というのが解剖チームの見解だ。生体かどうかも不明なため衛生課に回していいかもわからない」
「なら悪趣味な奴がそういう風に作ったもの、で終わらないのか?」
「だとしたら所持品がおかしいです。服を着せるまではわかりますがわざわざ使い古しで、さらには身分証から財布、デバイスまで複製偽造をしたとは考えにくい」
「ついでに言えば当該人物は昨晩で消息を絶っている。その後の目撃情報もない……ってなると本人って考えるのが物凄く妥当だ」
「えっと……一旦まとめていいかな。
消息不明となった人物が完全に神秘とは無関係な状態で死亡しているのが見つかった、で合ってる?
ちなみに発見者は班内にいる?」
「……私です。場所は駐屯地裏の片隅、あまりに外傷が少なすぎるため報告を行いました」
「迅速な対応に感謝します。外部への情報共有は行っていませんね?」
「はい。受付エリアは経由せずそのままこちらへ運搬を行い、その後検案を実施しました」
「現場周辺、違和感はありませんでしたか?」
「確認した限りでは何も……ただ出現怪奇が死体を完全に無視していたのは引っかかりましたね。
解剖チームからの見解や違和感など、もう少し詳しくお伺いしても?」
「確認した限り、明確に遺伝子情報全般が欠落していた。
ミクロ視点での調査も行ったが細胞の分化や代謝の形跡もない。
脳神経の構造も全域が均等に結びついていた……どれも生物ならまずあり得ない」
「なんかこういう思考実験なかったっけ? ひよこの」
「組成が同一であっても喪われている情報がある、とかだっけ? 確かに似ていそうな気はする……かな」
「待って、もしかして神秘が一切観測されていないのってさ……」
「いずれにせよ現状はまだ謎が多い。
もう少し調査を重ねたいが……内容が内容なだけにあまり大事にしたくはないな」
「協力を仰ぐとして、とりあえず調査課か監視課ですかね? 内容的に自然発生とは考えにくそうですし」
「少なくとも民間には……あ」
「ご安心ください。騒ぎ立てなどしませんとも」
「……こちらも、あの辺をむやみに巻き込むつもりはございませんのでね」