RECORD

Eno.77 磯向井 利慕の記録

❖回想録



「お願い、リシタ」

「それ、やめて」



 母が示したのは、図書室から借りてきた海の本だった。
 何を止めてと言われたのか、分からず。

「海って凄いんだよ!」

「広くて、大きくて。
 波の音が心地よくて、天気によって姿形が変わるようで」



「やめて!!」



 母の怒鳴り声に固まってしまう。自分のワクワクした、温かい感情を否定されたようで。

「リシタもお父さんの様にならないで」



 父親の事、全く知らないのに。知らないのに、同じ様になったのがどこか嬉しかったのに。
 泣き出した母を見て、それがいけない事だと言われた様だった。

「……ごめんなさい」



 本をランドセルにしまった。その後、母が居なくなってから読んだ。
 本を読んで怒られたのは、これが初めてだった。母が何を嫌がったのか、分かるまで少し時間が掛かった。

 海には興味があった。将来、それに携われたら良いなと思ってた。
 けど、母は海が嫌いだ。そんな母を悲しませたくなかった。

 だから、こっそりと海について調べながら、これはいけない事なんだと罪悪感を覚えた。
 今も海が好きとは言えない。