RECORD
Eno.448 藤 清士郎の記録
嫌悪
人生で初めて感じた嫌悪感は、ホラー映画を見た時だった。
恐怖は自分に似合わず、理由も知れない嫌悪感が自分に付きまとったのを覚えている。
あそこへ行くときに感じるのとは、似て非なるものだ。
気に留めようとしなければいつだって意識の外へ外せる。
その程度の物。
口に出すのをためらわれること。
自分の感情をすべて理解しようとするのは不可能だ。
だから、きっとこれからも捨て置いていく。
「おれそんなに一般人に見えますかね」
不意に、余りの暇さから店長へ言葉を投げかける。
「あァ?ンだよ急に。そんな今更なこと聞いて。
悪いもん食ったら今のうちに言えよ。お前がいる日しか店開けれねェんだから」
何を食ったらこんな大人になれるんだろうか。此処最近のもっぱらの疑問だ。
「どうも。ストレートな肯定は身に沁みますね」
「あっちでめっちゃ一般人だと思われたってだけですよ」
別にそれを苦とする事はない。
大抵今更過ぎる話だ。
「なんだよそんなことか……、シンパイして損したな。
で、まさかンなことで傷心中だとか言い出さねェだろうな」
「言ったところで仕事が増えるだけでしょう」
言いそうな言葉を、或いは読める展開をちゃんと口に出すというのもこの店長と喋る時のコツだ。
「傷心しようがないでしょうに。事実としてそんなに変わらないんだから」
「どっちかっていうと、なんとなく居心地の悪さを感じた方が気になってます」
「この天真爛漫、社交性ツリーを生まれながらにカンストされて、この世に生を受けたおれがですよ」
「いや、居心地の悪さとはまた違う気はしますけど」
我ながら語彙にセンスがない。冗談ぐらい、笑えるものを言えたらどうだ、と思わなくもないが。
この人の前で着飾る方がバカを見る。
派手で、ネオンが煌めいて、センスのない、無様な方が合っている。
「曲がりなりにも本屋のバイトが読書不足たァ笑えるな」
「違う気がすると思うんなら、適切な言葉を探しやがれ。
語彙がないってんなら本を読め。
自分自身でどう思ってんのかよく分かってねェってんなら、もうちょいじっくり考えるか、そんなもんなかったことにしちまうかどっちかにしろ」
「そう思わねェか?」
良く思いますよ。
その言葉は秘められる。癪に障るからだ。
一々嫌なことを言う人だ。
「うわあ」
「すごい」
「ちゃんとした大人みたいですね」
店長の睨みを涼しい顔をして気にせず言葉を続ける。
「似てる物はちゃんと探しましたよ。嫌悪感です」
「なんか違うんですよね」
生きてきた中で、あの感覚は存在していない。つまり、未知だ。未知であり、神秘であろう。
「一般人だからかもしれません」
一般人などではない。困ったことに。
「癪ですが、なかったことにしておきましょうか、今のところは」
「ハ、いいんじゃねぇの。今のところはな。
ちゃんとした大人らしく、ガキの選択は尊重してやるよ」
「お前の感じるその嫌悪感とやらを無視出来なくなった時、困るのは俺じゃねェ、お前の方なんだからよ。
俺はお前がしっかり時給分働いてくれりゃどうだっていい」
「……ま、お前は勿論それくらい簡単にこなすんだろうなァ。
何せ天真爛漫、社交性ツリーカンストのクソ優良バイトなんだもんな?」
瞑目して。いつも通りみたいな顔をして、視線を投げかけて。
「店長」
「クソはつけない方が上品ですよ」
その反論は少しだけ憮然としていたように思えるし、しかし乍らそれを認めようともしない自分もいたから。
「来ませんよ、困る日なんて」
「━━━━」
「こんな楽なバイト、そうそうないんですから」
恐怖は自分に似合わず、理由も知れない嫌悪感が自分に付きまとったのを覚えている。
あそこへ行くときに感じるのとは、似て非なるものだ。
気に留めようとしなければいつだって意識の外へ外せる。
その程度の物。
口に出すのをためらわれること。
自分の感情をすべて理解しようとするのは不可能だ。
だから、きっとこれからも捨て置いていく。
「おれそんなに一般人に見えますかね」
不意に、余りの暇さから店長へ言葉を投げかける。
「あァ?ンだよ急に。そんな今更なこと聞いて。
悪いもん食ったら今のうちに言えよ。お前がいる日しか店開けれねェんだから」
何を食ったらこんな大人になれるんだろうか。此処最近のもっぱらの疑問だ。
「どうも。ストレートな肯定は身に沁みますね」
「あっちでめっちゃ一般人だと思われたってだけですよ」
別にそれを苦とする事はない。
大抵今更過ぎる話だ。
「なんだよそんなことか……、シンパイして損したな。
で、まさかンなことで傷心中だとか言い出さねェだろうな」
「言ったところで仕事が増えるだけでしょう」
言いそうな言葉を、或いは読める展開をちゃんと口に出すというのもこの店長と喋る時のコツだ。
「傷心しようがないでしょうに。事実としてそんなに変わらないんだから」
「どっちかっていうと、なんとなく居心地の悪さを感じた方が気になってます」
「この天真爛漫、社交性ツリーを生まれながらにカンストされて、この世に生を受けたおれがですよ」
「いや、居心地の悪さとはまた違う気はしますけど」
我ながら語彙にセンスがない。冗談ぐらい、笑えるものを言えたらどうだ、と思わなくもないが。
この人の前で着飾る方がバカを見る。
派手で、ネオンが煌めいて、センスのない、無様な方が合っている。
「曲がりなりにも本屋のバイトが読書不足たァ笑えるな」
「違う気がすると思うんなら、適切な言葉を探しやがれ。
語彙がないってんなら本を読め。
自分自身でどう思ってんのかよく分かってねェってんなら、もうちょいじっくり考えるか、そんなもんなかったことにしちまうかどっちかにしろ」
「そう思わねェか?」
良く思いますよ。
その言葉は秘められる。癪に障るからだ。
一々嫌なことを言う人だ。
「うわあ」
「すごい」
「ちゃんとした大人みたいですね」
店長の睨みを涼しい顔をして気にせず言葉を続ける。
「似てる物はちゃんと探しましたよ。嫌悪感です」
「なんか違うんですよね」
生きてきた中で、あの感覚は存在していない。つまり、未知だ。未知であり、神秘であろう。
「一般人だからかもしれません」
一般人などではない。困ったことに。
「癪ですが、なかったことにしておきましょうか、今のところは」
「ハ、いいんじゃねぇの。今のところはな。
ちゃんとした大人らしく、ガキの選択は尊重してやるよ」
「お前の感じるその嫌悪感とやらを無視出来なくなった時、困るのは俺じゃねェ、お前の方なんだからよ。
俺はお前がしっかり時給分働いてくれりゃどうだっていい」
「……ま、お前は勿論それくらい簡単にこなすんだろうなァ。
何せ天真爛漫、社交性ツリーカンストのクソ優良バイトなんだもんな?」
瞑目して。いつも通りみたいな顔をして、視線を投げかけて。
「店長」
「クソはつけない方が上品ですよ」
その反論は少しだけ憮然としていたように思えるし、しかし乍らそれを認めようともしない自分もいたから。
「来ませんよ、困る日なんて」
「━━━━」
「こんな楽なバイト、そうそうないんですから」