RECORD

Eno.662 辰森 ユキの記録

ある日の会話6

「さて……そろそろ最後の講義になるかな。随分と長居をしてしまったものだ……
いい加減、あちらでの仕事も溜まっているだろうし、ね。」



それは置いといて、のジェスチャー。

「今回は……変化へんげについてのおさらいとしておこうか。
大体伝えられることは伝えたと思うし。
まずは……変化の意義。これはまあ色々あるが、君の生まれ持った姿にも関係する話でもあってね。
いうなればそう……擬態だ。我々は人間の現代兵器さえ歯牙にも掛けぬ強さを持つ。
されど、そう何度も何度もやってこられては辟易もする。
だから人の形になる術を得て、対話の道を選んだ。」



これは推測だが、と続く。

「君の場合はそれが卵の中で起こった。
卵殻の中で周囲の環境を察知し、最も衝突の少ない形を無意識に選んだ、と私は考えている。
まあ何分、故郷でもそうした事例はほぼ確認されていなくてね。
逆のケース、即ち竜の形のまま人型の仔を生んだという事例も確認されていない。
人型同士の番から人型の仔が生まれてくることは、普通にあることだが」



科学的に考えると不思議な話だが、彼女ら異界の竜ではよくあることらしい。

「人型で生まれてくる仔らは大抵、人の間で暮らしていくことになるから、竜の形を取ることは滅多にない。
とはいえ、我々のルーツであり、種としてのアイデンティティに関わる。
故に、変化の術を身につける訓練をすることは良くある。
君にも既にやってもらってはいるが……やはり上手く行かないのは、
日頃身近に同種の存在がいないせいだろうなぁ……
変化にはイメージが大事だ。一方で、元の姿に戻るという意味では自身を正しい型に嵌め直す作業でもある」



抽象的にすぎるが、そうとしか言いようがない。

「いっそ、元の姿にこだわらず君のなりたい姿になるのも良いかも知れないね。
好きな姿なら、色々空想も出来るだろう?なりたい形のイメージを強く固めるのが第一歩。
……としか教えようがないのが歯痒いが、ね。
私は教師や教官などしたことはないし、いっそ教本を持ってこられれば良かったんだが……
ああいったものは世界を渡る間に変質しやすくてねぇ……」



まいったまいった、と力なく笑って。

「さて、今日はこれくらいにしておこうか。君たちは旅行の計画もあるだろうし。
私?流石について行くのは気が引けるさ……なんなら、母君だって君たちだけで行かせたい位だろう?」



異界でも流石にこういう時は空気は読むらしい。