RECORD
Eno.110 紅坂 一途の記録
一途に咲く花 3
菘さんの横に知らない男が立っていた。
遊女という仕事だ、男が隣に立っていたって何もおかしくはない。
けれど、男を見る菘さんの顔が客に向ける顔じゃなかった。
明るく楽しげなだけじゃない、どこか慈しみを感じる顔で笑っていた。
あの人、こんな顔して笑うんだ。
そんなことを思って思わず足が竦んだ。
俺は、あの人にそんな顔をさせる男に食ってかからなきゃならないのかって。
でも、黙って身を引くなんてできる筈がない。
俺はずっとずっと菘さんを自由にしてやるために金を稼いで暮らしていた。
吠える権利くらいある筈だと、走り出して二人の間に割って入った。
……そうして、ただ勢いに任せて男を睨みつけた時は肝が冷えたね。
関わり合いこそなかったもののその顔を俺だって知っていた。
ちんけな花街どころかその先にあるでかい花街すらも縄張りに入っちまうような、
馬鹿でかい組の総大将。無頼漢共の元締め。そいつが目の前に立っていた。
一言文句でもいってやろうと飛び込んだくせして声が出なかった。
菘さんが笑って俺のことを弟みたいな奴なのだと紹介し始めたことに、
異を唱える余裕すらなかった。相手は対抗してどうなる男じゃないから。
つまりは、諦めてしまったってわけだ。
相手の肩書きにびびってしまったというのもあるが、
普段とはまるで違う笑顔を向ける菘さんの顔を見て
ああ、俺には無理だと一瞬で身の程を解らされてしまった。
……馬鹿だよなあ。本当に好きだったっていうのに。
ちっとも男として見られてなかったんだなと気づいてしまって
頑張ろうと燃えることすらできなかったんだ、俺は。
遊女という仕事だ、男が隣に立っていたって何もおかしくはない。
けれど、男を見る菘さんの顔が客に向ける顔じゃなかった。
明るく楽しげなだけじゃない、どこか慈しみを感じる顔で笑っていた。
あの人、こんな顔して笑うんだ。
そんなことを思って思わず足が竦んだ。
俺は、あの人にそんな顔をさせる男に食ってかからなきゃならないのかって。
でも、黙って身を引くなんてできる筈がない。
俺はずっとずっと菘さんを自由にしてやるために金を稼いで暮らしていた。
吠える権利くらいある筈だと、走り出して二人の間に割って入った。
……そうして、ただ勢いに任せて男を睨みつけた時は肝が冷えたね。
関わり合いこそなかったもののその顔を俺だって知っていた。
ちんけな花街どころかその先にあるでかい花街すらも縄張りに入っちまうような、
馬鹿でかい組の総大将。無頼漢共の元締め。そいつが目の前に立っていた。
一言文句でもいってやろうと飛び込んだくせして声が出なかった。
菘さんが笑って俺のことを弟みたいな奴なのだと紹介し始めたことに、
異を唱える余裕すらなかった。相手は対抗してどうなる男じゃないから。
つまりは、諦めてしまったってわけだ。
相手の肩書きにびびってしまったというのもあるが、
普段とはまるで違う笑顔を向ける菘さんの顔を見て
ああ、俺には無理だと一瞬で身の程を解らされてしまった。
……馬鹿だよなあ。本当に好きだったっていうのに。
ちっとも男として見られてなかったんだなと気づいてしまって
頑張ろうと燃えることすらできなかったんだ、俺は。