RECORD

Eno.26 朔 初の記録

CASE:21






私、は。


私は。


し、知らない、知らない、

知らないよ。見てないよ。

あのSARFグループなんて見てないよ。
名前あったかもしれないけど。ほら、既読ついてないでしょ?!
私見てないもん、私は見てないから。

知らない。あの子に何にもしてないよ。

ああだから、今見えたのを気のせいにしてよ。


私は悪くない。







分かってたんですよ、本当は。
分かってたけど、命じられたらやらなきゃいけないじゃないですか。
2年生から、一つ上の学年から。
そうやって言われたなら、やらないといけないじゃないですか。
年功序列ってあるじゃないですか。
噛みつくにしたって、当時の私じゃ無理な話でした。
1人では無理な話でした。

自分より身長が高くて、力も強そうで。派手な人たちに大声を飛ばされている。

ほんとにそれだけで怯えが深まってたんです。
怖かったんです。本当に。嘘偽りなくものを思うなら。
仕方ないじゃないですか。
誰だってそうなるし。
いろんなこと、ずっと気にしていたあの頃なら、特に。


あの頃というほど昔ではないんですけどね。

初めは雑用ばかりでした。

ただ、それは明確な悪意でした。
あの人たち、私にバトミントンをさせたくなかったんです。


させたくなかったんです。
それが被害妄想だっていうなら、私の聞いたあの言葉は嘘だったというのですか。



「健気に従ってご苦労だ事」

「命令そのまま従っててウケるんだけど」

「あいつ考える頭ねえんじゃねえの?」


嘘だというのですか。

馬鹿にされていました。
これは俗にいういじめなのではないかと。
すぎる頭もありました。
せっかく祖父母に買っていただいたラケット。
一回も使えません。
握らせてもらえなかったし、振るわてもらえなかったから。

憧れが錆びついていきます。
堕ちていきます。

それを誰かに告白する勇気もなく。
時間だけが過ぎていきました。




私はあの人たちのおもちゃでした。










▼おもちゃになったこと


残念ながら、おもちゃになっていました。
それってどんどん過激化するものでした。
飽きてきたら別のおもちゃに、にはなりませんでした。
そのうち何がきっかけかなんて忘れ去られていったのでしょう。
そういうふうに扱っていい子。
異様な空気感は、部活の、それも学年だけという閉鎖空間だから。
先生のいないところでやるのだから姑息でした。

悪いって分かってるじゃないですか。

まあでも、だんまりだったわたしもわるくて。
そういう原因があったという事でしょう。

でないとやってらんねえよ。



ある先輩がノリで軽く叩いたことがきっかけでした。
殴る、蹴る、はそこから始まりましたが、回数は別に多いものではありませんでした。
あがなど残らない程度の優しいものでした。
私は本当に嫌だった。

話が広まったか、尾鰭がついたか、クラスが同じだからか。
平穏だったクラスでも、陰口が目立つようになってきました。
悪口はなくても、避けられる。
それでも友人だった子達が仲良くしてくれたから孤立は免れていたが。


その子たちと遊ぶ時間が好きだった。
家の人、なんとか説得して。
否、嘘ついて。
小学校の時からずっと持ってて、貯めていたお年玉叩いて。
休日部活だって嘘ついて遊びにいった。



免れてたけど。




「…」

「あのね、はっちゃん、これ」

「………」
「え?」


見せられた画面。
並ぶ悪烈な言葉。
結構な人数の中に。

「………」

「……………」

「あの、」

「………!」


言葉を遮る代わりに、逃げた。
そこには、ここにいない友人の名前も並んでいた。
そういうグループがあるのを知ってたんだろう。

そういうことだった。


私が馬鹿だった。
私が、馬鹿だった。
そういうの知ってて黙ってたんだ。


もう十分だった。


いつもこういう目に遭うのだった。

いいよ、いいよ。
別にいい。
そう思われるのなら仕方ない。
見る目のない私が仕方ない。
楽しかったこと、すぐに色褪せてしまうのだから仕方ない。


もうよかった。









「逃げたかった、逃げたかった」



「嘘ついてた友達からも」



「先輩につけられたあざみても何にも言ってくれなかった祖父母からも」



「こんなところ逃げたかった、けど」



「…逃げられなかった」



「祖母は学校に行かなかったら体裁が悪いと叱ってきたし」



……もう、家族には迷惑かけらんないよ



「3人グループは壊れちゃった」



「だからと言って嘘ついて、学校ズル休みもできなかったし」



「部活も休めなかったし」



「先輩たちが引退しても、同級生が雑用係は引き継いでった」



「マネージャーというには、管理をさせてもらえないし」



「私は、」



「…………」







◆秘密の話








──でも空想の世界にはもう逃げられないのだった。


不思議だらけの場所にはもう逃げ込めなかった。
魔法が使えるような素敵は消え去っちゃった。
だってあそこにいったら、きっと溺れちゃうから。
私は夢見がちで、現実が嫌になるとそうやってあそこで頭を遊ばせていた。
逃げっぱなしだった。

何よりあそこの世界は、小学生の時の私が夢見た場所なのだと言い聞かされた。
カウンセリングの先生はそう言っていた。
よく覚えてないのだった。
あのことがあった後、あそこの世界の記憶はふわついていた。
だからそう言われるときっとそうだったような気がしていたし。



あそこに行くと怖い目に遭うのだと、体が怯えていたから。


好きだったもの、ぜんぶ投げ捨ててしまった。


大切だったぬいぐるみがあったの。
お母さんに買ってもらったもの、ずっと私のお友達だった。
ぬいぐるみのくまだった。

小さい子の人形があったの。
着せ替えられる、お世話のできる人形。
もう遊ばなくなってしまったけれど、あなたの思い出だからって、お母さんがいつまでもとっていた。

どっちも燃えて無くなっちゃったから、絵に描いて忘れないようにしていた。

絵を描くのが好きだった。
お父さんの真似っこだった。

私だけのお話を頭の中で思い浮かべて描いていた。
よく描くうさぎの絵があった。
鉛筆を擬人化させていた。

空想の中にいた。








私の大切な空想たちが、急に私に傷をつけてきた!





──ペンを持つたびに手が震えた。

想像もできなければ、写実的なものもできない。
しないようにって、心がブレーキをかけていた。
都合のいいハッピーエンドを描かないように。
現実に足をつけていきましょう!



私のキャンバス。

私のスケッチブック。


お父さんの大好きだったこと。


私も大好きだったこと。




「…」

「描けなくなっちゃった」















「もうこんな思いしたくないよ」

「何にも、負けたくないよ」

「悔しいよ、こんなの」

「いやだよ」

「いやだ」


馬鹿にするな。
可哀想って見下すな。
信じたことを裏切るな。


「…………」


だから1人で頑張るって決めたの。

1人でなんでもできるように。

一人ぼっちでも立ってられるように。

3年生の時からそうあるようにした。

馬鹿にされても、笑うんじゃなくて睨みつけた。

これが間違ってるのは分かってるけど。


知らない。


ちゃんと1人で歩けるように。
ちゃんと1人で立ってられるように。


「はじめまして、こんにちは」

「…」


「嫌いな言葉だな」







──朔初は今日も。