RECORD

Eno.662 辰森 ユキの記録

ある日の会話7

「見送りなんて良かったのに……でも有難う。世話になったね」



そう言って笑う“異界の竜”はスーツケース1つを携えたのみのスタイル。
旅慣れており、荷物は来た時と変わらぬ量である。

「はは、二人共そんな顔しないでよ……なにも今生の別れというわけじゃない。生きていればまた会える……
……と。餞別じゃあ無いが、これを渡しておくのを忘れていた。
これは私と君たちとのえにしの証。何かあれば、私はそれを辿り来るだろう……
まあその前に、向こうへ着き次第代わりの者をこちらへ寄越すから、その子がそれをよすがとするか」



そう言って首にかけていたペンダントを外して……辰森コウへと渡した。
そのペンダントヘッドは竜の絡みついた剣であった。
キーホルダーほど大きくはないので、一見するとロザリオか何かに見えなくもない。

「なんで僕かな……って、今なにか聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど。
機関には許可貰ってるの?」



何だこのデザイン……と思いながら、受け取ったペンダントをポケットに仕舞って。
怪訝な顔で尋ねる。

「当たり前だろう?私が来たときの彼らの大騒ぎっぷりときたら……記憶に新しい。
ああ、それを君に渡したのは、ユキ君にはこっちを渡すからだ」



そう言って今度は、ユキに分厚いファイルを手渡す。

「これは、件の教本の内容を思い出せるだけ思い出して書き記したものだ。
少し欠けている内容はあっても、間違っている部分はないはずだよ。
まあ、大半は既に教えたことだが、ね。代わりの者が来るまで、それで予習復習をきちんとしておいて欲しい。
……ん?お、なんだなんだ?」



コウが抱き着くような動きで、“異界の竜”の首の後ろに手を回し……

「まさかペンダント被りとはね……理由は大体一緒。
随分と僕にご執心のようだったから、あっちでそれ見て僕のこと思いだしたら良い、と思って。
それに娘も世話になったし……そう言えば最後にもう一度勧誘したりはしないんだ?」



照れ隠しの憎まれ口。それ位には気安い関係になっていた。

「旅行の準備で忙しいだろう?それに、私の目的はユキ君を連れ帰ることじゃない。
あくまで、生きているかの確認と、そうであれば幸せであるかの確認。
幸せで暮らしているのなら……それを守る。私の本業はそういう仕事なんだよ」



一体どういう仕事なんだ……

「本当に……有難う御座いました。
あなたが居なければ、私は色々な不安を抱えたまま過ごしていたことでしょう」



ははっ、と快活に笑う“異界の竜”。

「なに、私はほんのちょっと後押ししただけさ。君の将来はまだまだこれからだ、先は長いぞ?
私の後任はなるべく若い子を送り出すから、是非仲良くしてやってほしい」



こくりと頷く二人を見て、今度は満足げな笑みを浮かべる。

「ああ、最後に私の名を教えておこう……君たちに発音しやすい形では……ヤウルン、となるか。
鉄、硬さ、強靭さの象徴、そんなような意味だ。
……私は、君たちのことを家族のように想い続けるだろう。それじゃあいつか、また会おう」



背を向け、去っていく“異界の竜”、ヤウルン。
その足取りは意気揚々と、使命を果たした晴れやかさが溢れ出していた。

Behind the Scenes Ep.0 了