RECORD

Eno.32 不藤識の記録

record. 『影踏み、斜陽に傾いて』

 月待よすが。
 自分の恋人であり、物理的・神秘的な被害を負いがちな少女。
 此度の被害――と呼ぶにしては、あまりにも本人の意思が垣間見える――は、表世界の彼女が別の存在に成り代わるというもの。
 裏にいる彼女は、少なくとも、存在の定義上においてはいつも通りで。つまり、表にいる彼女だけが、中身本質を異なるものとしている。
 月待よすがの影、或いは鏡面。
 その問いに是と答える存在は、裏世界に行くことを恐れている。月待よすがと不藤識を結びつけたのは裏世界であり、決定的な思い出は鏡面にこそあるというのに、その場所へ赴くことについて、再三否定する姿勢を見せていた。
 その事から、彼女・・――月待よすがの影のため、ここでは女性と定義する――は、裏世界へ行くことになんらかの不利を抱えている。

 これは彼女にとっての現状判明している唯一と言っていいほどの弱点であり、月待よすがとして生きるには致命的欠陥でもある。

 彼女は月待よすがとして受け入れてもらう事を望んでおり、己にもその旨を何度も語っている。未だ本人が月待よすがとして定着していないことの現れなのかもしれない。
 また、この言動と『鏡屋』――合わせ鏡をした思い出の場所――に対しての拒否感情から、己の本質が浮き彫りになることも恐れている。神秘解体の可能性が高まるからだろう。月待よすがを取り戻した後、あるいはその過程において、これを利用した神秘の解明を行う必要性もあるかもしれない。
 いずれにせよ、裏世界にいるよすが本人が消えた訳ではない以上、まだ対処する時間は残っていると推測できる。


――――――――――――


 不等式・・・の残量は皆無に等しい。
 この調子で身体を酷使していると、盆の帰省には解体措置を受けることだろう。
 このことから、不藤識、及び月待よすがには、時期の違いはあれどタイムリミットが存在していることになる。 
 このことは、裏の月待よすがが月待よすが本人であることの確認に不等式を行使した際にも、改めて自己確認を済ませている。

 それまでに己と不知火京介の分離を済ませ、月待よすがを取り戻す。
 それがこの夏の課題だ。学校の課題については既に全て終えたので、残タスクはこの2点になる。
 月待よすがとの約束を果たすためにも、お互いの本物が来年の夏を迎える必要があるのだ。
 例え影の方がどうなってしまおうと、必ず。


――――――――――――


 そういえば、現在表にいる偽・月待よすがの名称が定まっていないな。
 調査過程にて適切な名称を見つけたので、今後はその呼称を用いようと思う。

 鏡面に写りし幻覚。自己像幻視ドッペルゲンガー

――すなわち、autoscopy影の病 、と。