RECORD
Eno.182 ■■ ■一の記録
現状の神秘は、科学の――人間の傲慢な常識に侵略を受けている。解析行為による普遍化は神秘に対する拷問に他ならない。
神秘には人権がない、尊厳もない。故にこの概念は蝕まれ犯され、そして今なお踏み躙られ続けている。
……何とも我慢のならないことだ。
神秘はもっと自由であるべきではないのか?
もっと純粋に、無限の可能性を発露してもいいのではないだろうか?
あの日の言葉を思い出す。
人間社会の時間基準で何年前になるのか、それすらもう覚えていない。
「神秘を管理して、それから何になるんだろうな。
これだけの時間や命を賭けても、わからないことがわかるばかりでゴールも見えない」
いつから意識を得て、いつから動いていたのだろう。
「責任感で職務に殉じた……美談のように言いやがって。後始末するこっちの身にもなってくれよ」
奴の言葉で覚えているのはそういった愚痴ばかり。
人間に神秘が、裏世界との接続可能性があることを是としていないような言い方だった。
「……お前なら、わかってくれると思っていたんだけどな」
檻の中はとにかく不自由だ。対話も認められないまま勝手に方向性を定められ、そのまま飼い殺されることも珍しくない。
シバルバはその事実に憤っていた。ソウズカも絶望していた。
神秘は神秘であり、人間程度に理解されるような代物でもない。
だというのに人間はそれを知ろうと傲慢な解釈に当てはめ、そしてその可能性を制限してくる。
今しがた捕獲した知り合い――センゲンもまた可能性を制限されてしまった神秘だ。
分析した限り長いこと縛られ続けている様子で、さぞ不平や不満もたまっているのではないかと期待もあったのだが……。
「何もわかっていないさ。
儂もお前さんも別存在。どれだけ歩み寄ろうとあくまで表層の理解に留まろう」
「確かに不自由だよ。こっちの世界と関わらなけりゃ我々だってもっと自由だったろうね。
でもそうはならなかったのが現状だ。受け入れて対話の道を探るのが妥当じゃないか?」
その期間は、どうやら抗う意思すらも奪ってしまうようなものだったらしい。
「対話が許されるなら我々もそうしたかったよ。
でも概念が違う、原理が違う、常識も違う中で意思疎通を図るには双方の歩み寄りが不可欠だ。
我々は我々なりに対話の道を探っているというのに……」
「人間の傲慢を語っているようだが、人間の視点からすればそれもまた傲慢に見えるな。
直接関わろうともせず何が対話だ。一方的な押し付けにしか見えんぞ」
「前提が間違っていたんじゃないか? 概念も原理も常識も違う相手だ。
イメージと実態の乖離なんてよくある話だろ」
センゲンは前提が誤っていると主張したいようだ。ついでに檻の方も。
「であればこの先どうすればよいというのだ。誤ったまま動いてしまった後だぞ!」
「ならばセンゲンよ、今一度問おう……我々はどうすればよかったのだ?」
シバルバとソウズカが詰め寄った。
きっと囚われた身には何も見えやしないだろうが、意識は確かにそこにある。
きっとセンゲンには見えている、わかっているはずだ。
「……我々から言えることは一つ。お前たちの目的は最初から破綻している。
真に自由を求めるのであれば、檻より先に捨てねばならんものがあったぞ」
「檻より、先に……?」
「フェイスレス?」
我々がその言葉の意味を知るところになるのは、もう少しだけ後の話。
Abyssus abyssum invocat
神秘には人権がない、尊厳もない。故にこの概念は蝕まれ犯され、そして今なお踏み躙られ続けている。
……何とも我慢のならないことだ。
神秘はもっと自由であるべきではないのか?
もっと純粋に、無限の可能性を発露してもいいのではないだろうか?
あの日の言葉を思い出す。
人間社会の時間基準で何年前になるのか、それすらもう覚えていない。
「神秘を管理して、それから何になるんだろうな。
これだけの時間や命を賭けても、わからないことがわかるばかりでゴールも見えない」
いつから意識を得て、いつから動いていたのだろう。
「責任感で職務に殉じた……美談のように言いやがって。後始末するこっちの身にもなってくれよ」
奴の言葉で覚えているのはそういった愚痴ばかり。
人間に神秘が、裏世界との接続可能性があることを是としていないような言い方だった。
「……お前なら、わかってくれると思っていたんだけどな」
檻の中はとにかく不自由だ。対話も認められないまま勝手に方向性を定められ、そのまま飼い殺されることも珍しくない。
シバルバはその事実に憤っていた。ソウズカも絶望していた。
神秘は神秘であり、人間程度に理解されるような代物でもない。
だというのに人間はそれを知ろうと傲慢な解釈に当てはめ、そしてその可能性を制限してくる。
今しがた捕獲した知り合い――センゲンもまた可能性を制限されてしまった神秘だ。
分析した限り長いこと縛られ続けている様子で、さぞ不平や不満もたまっているのではないかと期待もあったのだが……。
「何もわかっていないさ。
儂もお前さんも別存在。どれだけ歩み寄ろうとあくまで表層の理解に留まろう」
「確かに不自由だよ。こっちの世界と関わらなけりゃ我々だってもっと自由だったろうね。
でもそうはならなかったのが現状だ。受け入れて対話の道を探るのが妥当じゃないか?」
その期間は、どうやら抗う意思すらも奪ってしまうようなものだったらしい。
「対話が許されるなら我々もそうしたかったよ。
でも概念が違う、原理が違う、常識も違う中で意思疎通を図るには双方の歩み寄りが不可欠だ。
我々は我々なりに対話の道を探っているというのに……」
「人間の傲慢を語っているようだが、人間の視点からすればそれもまた傲慢に見えるな。
直接関わろうともせず何が対話だ。一方的な押し付けにしか見えんぞ」
「前提が間違っていたんじゃないか? 概念も原理も常識も違う相手だ。
イメージと実態の乖離なんてよくある話だろ」
センゲンは前提が誤っていると主張したいようだ。ついでに檻の方も。
「であればこの先どうすればよいというのだ。誤ったまま動いてしまった後だぞ!」
「ならばセンゲンよ、今一度問おう……我々はどうすればよかったのだ?」
シバルバとソウズカが詰め寄った。
きっと囚われた身には何も見えやしないだろうが、意識は確かにそこにある。
きっとセンゲンには見えている、わかっているはずだ。
「……我々から言えることは一つ。お前たちの目的は最初から破綻している。
真に自由を求めるのであれば、檻より先に捨てねばならんものがあったぞ」
「檻より、先に……?」
「フェイスレス?」
我々がその言葉の意味を知るところになるのは、もう少しだけ後の話。