RECORD
Eno.182 ■■ ■一の記録
神秘管理局研究課検死班。
そこで日々死者相手に調査を重ねる研究者の は、思い悩んでいた。
毎度のごとく運び込まれる死者は皆神秘の力に踊らされている。
理不尽な暴走を取る神秘、人の悪意に利用される神秘、人の在り方を狂わせる神秘。
――神秘が人間に、社会に与える利点ってなんなんだ?
神秘が人間社会にとって必ずしも必要ではない可能性に気付いた は神秘管理局の在り方にも強い疑念を抱き、一度神秘と対話を行う必要性を考えた。
しかし言葉も通じなければ概念すらも違う相手。
共通言語を何らかの形で用意しなければならないし、そもそも明確に実在する神秘を探すこともまた一苦労だ。
自分の内部にある神秘でも利用できればある程度楽かもしれないが……そんなことを考えている折、タルパと呼ばれる概念に行き着いた。
わかりやすく言うとイマジナリーフレンドに近いものだが、 はこの概念を神秘に適応し、疑似的な人格として対話に持ち込めないかを一つの策として思いつく。
対話は成功したが、この方法には大きな問題があった。
本人も神秘の人格も、原点が の思考回路であることに変わりがないため思想的に似通ってしまい、類似した思想の偏った共鳴が発生し続けてしまうのだ。
の思想に汚染された神秘は、自らを不自由と認識し人間や社会との不干渉を望み始めた。同様に 自身も、神秘と人間とを分断する方法を探り始めることとなる。
――抜けば、よいのでは?
神秘の増幅や抑制を齎す薬剤の開発は進んでいた。ここの成分分析次第で、神秘を完全に分離することも理論上は可能ではないだろうか。幸い神秘の基準は人間にとって未知なもの。人知の及ぶ範囲にあるものは神秘ではなく、それらを対象から完全に分離すれば容易に把握できる。
理論が分かれば、残すところは実験と実践のみ。
手近な機工怪奇が検証には一番手っ取り早かった。神秘を抜いて物体になったとしても違和感がなく、また敵対存在として知られているなら問題も起きにくい。
分離方法が分かればいよいよ実行段階だ。
もともと共有するつもりもなく自分のためだけに行うもの。故に細かな検証は飛ばし全てを自己責任として背負う前提で、 は自らの神秘を自身と分離した。
実践は成功した。霞に似た実体を獲得して神秘は分かたれ、残ったのは人知の及ぶ範囲にとどまった人間――その姿を模した肉体であった。
は裏世界に、神秘に関わることの意味を見落としていた。
そこへの繋がりを得るということは神秘と不可分になることでもあり、強引な手段による分離は人間をただの物体へと変質させてしまうのだ。
絶命した の意識は消え、残ったのはその肉体と神秘のみ。
右も左もわからぬ神秘は、ひとまず自身の核をより明確なものへ向けようと判断し、真っ先に目についたものを選出した。
フェイスレスの核となっていた模型は遺品各種からその身元の特定に成功し、推測通り検死班に所属していた人物であると明らかになった。
改めて思えば、不審な点は多かった。
一人称が我々であったのも、神秘本位のわりにところどころで妙に人間への配慮を行おうとしていたのも、態度が微妙に違う性格に見えたのも……この異質性に照らし合わせれば納得のいく部分も多い。
神秘基準でモノを考えた時、果たして現状や人間たちはどう映るのだろうか。

形見として受け取った白衣を羽織りつつ、私は今日も仕事の続きへ出向く。
Curiosity killed the cat, but satisfaction brought it back
に纏わるデータ
そこで日々死者相手に調査を重ねる研究者の は、思い悩んでいた。
毎度のごとく運び込まれる死者は皆神秘の力に踊らされている。
理不尽な暴走を取る神秘、人の悪意に利用される神秘、人の在り方を狂わせる神秘。
――神秘が人間に、社会に与える利点ってなんなんだ?
神秘が人間社会にとって必ずしも必要ではない可能性に気付いた は神秘管理局の在り方にも強い疑念を抱き、一度神秘と対話を行う必要性を考えた。
しかし言葉も通じなければ概念すらも違う相手。
共通言語を何らかの形で用意しなければならないし、そもそも明確に実在する神秘を探すこともまた一苦労だ。
自分の内部にある神秘でも利用できればある程度楽かもしれないが……そんなことを考えている折、タルパと呼ばれる概念に行き着いた。
わかりやすく言うとイマジナリーフレンドに近いものだが、 はこの概念を神秘に適応し、疑似的な人格として対話に持ち込めないかを一つの策として思いつく。
対話は成功したが、この方法には大きな問題があった。
本人も神秘の人格も、原点が の思考回路であることに変わりがないため思想的に似通ってしまい、類似した思想の偏った共鳴が発生し続けてしまうのだ。
の思想に汚染された神秘は、自らを不自由と認識し人間や社会との不干渉を望み始めた。同様に 自身も、神秘と人間とを分断する方法を探り始めることとなる。
――抜けば、よいのでは?
神秘の増幅や抑制を齎す薬剤の開発は進んでいた。ここの成分分析次第で、神秘を完全に分離することも理論上は可能ではないだろうか。幸い神秘の基準は人間にとって未知なもの。人知の及ぶ範囲にあるものは神秘ではなく、それらを対象から完全に分離すれば容易に把握できる。
理論が分かれば、残すところは実験と実践のみ。
手近な機工怪奇が検証には一番手っ取り早かった。神秘を抜いて物体になったとしても違和感がなく、また敵対存在として知られているなら問題も起きにくい。
分離方法が分かればいよいよ実行段階だ。
もともと共有するつもりもなく自分のためだけに行うもの。故に細かな検証は飛ばし全てを自己責任として背負う前提で、 は自らの神秘を自身と分離した。
実践は成功した。霞に似た実体を獲得して神秘は分かたれ、残ったのは人知の及ぶ範囲にとどまった人間――その姿を模した肉体であった。
は裏世界に、神秘に関わることの意味を見落としていた。
そこへの繋がりを得るということは神秘と不可分になることでもあり、強引な手段による分離は人間をただの物体へと変質させてしまうのだ。
絶命した の意識は消え、残ったのはその肉体と神秘のみ。
右も左もわからぬ神秘は、ひとまず自身の核をより明確なものへ向けようと判断し、真っ先に目についたものを選出した。
フェイスレスの核となっていた模型は遺品各種からその身元の特定に成功し、推測通り検死班に所属していた人物であると明らかになった。
改めて思えば、不審な点は多かった。
一人称が我々であったのも、神秘本位のわりにところどころで妙に人間への配慮を行おうとしていたのも、態度が微妙に違う性格に見えたのも……この異質性に照らし合わせれば納得のいく部分も多い。
神秘基準でモノを考えた時、果たして現状や人間たちはどう映るのだろうか。
「……今度、議論室の議題にでも持って行ってみるか」
形見として受け取った白衣を羽織りつつ、私は今日も仕事の続きへ出向く。