RECORD

Eno.115 古埜岸姉弟の記録

外伝 - 霧崖神代末記《 汚染された神々 》

竹翔チクショウ
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霧崖国きりがけこくを旅する槍使い。
医術の心得がある。
好きな食べ物は素麺。



「本日は、神々の汚染について少しお話しましょうか」



かつて地表には、多くの神がおりました。
各々が何かを守る役目を持ち、粛々と灯る火に御座りました。

けれども、いつからか神は徐々に堕落し始めたといいます。
その元凶は、神々が『感情なるものに汚染されたから』だそうで。

感情無き、古き良き神とは
いったいどういうものだったのでしょう。

とにかく、神々は滅びつつありました。
役目を忘れ、ある者は悦楽に浸り、ある者は悲観に狂い、ある者は怒りに燃え

かの小国を襲った神も、そのうちの一柱だったのです。

……ええ、以前、人形のお話をしましたね。
贄の要求を膨らませ、小国の民を苦しめたという、あの神です。


  思い出す  



思い出されましたか?

かの神の名を八柄神ヤツカガミ
有毒の青い霧が充満する大きな火山。
その周りに八つの小国が寄り集まりできた、八小国やおこくを治めておりました。

八柄神ヤツカガミはとても優しい神で、
地表の者が生きられるはずもない過酷な地を
人々の懇願を聞き届け、鎮めた過去を持ちます。
人々に武具の鍛え方を、指南した過去を持ちます。

そうして、神でありながら民から『父』と慕われたお方。

神代の末期とは、
それほどのお方が荒ぶった時代なのです。































「俺たちだけで国を守れる!」
 


「返せ!」
 


「穀潰し!」
 


「人殺し!」
 


「かの神を滅ぼせ!」
 


「一晩にして一小国を滅ぼした神を、許してはおけない!」
 















月兎火ツキトビ
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霧崖国きりがけこくの神代末期を彷徨うモノ。
人々にあらゆる助言をする。
片手間に糸を紡ぐ。







「──お初にお目にかかります、チクショウ殿。
 私は八小国やおこくの七の長。

 どうか、どうかあなたのお力添えをいただけないでしょうか。
 人の世を推し進めるという、あなたの力を」


「はて、神の力無くとも
 八小国やおこくを治められると決起した御主らが
 この畜生めに頼るのですかな。

 拙者が太陽神の眷属、月の化身たる神であることはご存じですかな?」


「そのようなことを言っていられなくなりました。

 一晩にして、一つの小国が壊滅した。
 他の小国も贄を奪われ削がれ続けるばかり。

 もう、手段を選んでなどいられない!」


「左様に御座りまするか。

 良いでしょう。
 神に頼らぬことよりも、生き残ることを選ぶならば
 拙者も知恵を絞りまする」


「早速に御座りますが……

 聞いたところによると、
 御主らは拷問が得意なそうですね」


「えっ……
 確かに、そう、言えるのでしょうか。

 神は贄の家に白羽の矢を立てます。
 贄になるのを嫌がる者は必ず出ます。

 その首を垂れさせるために……」


では、それを八柄神ヤツカガミにもおやりなさい」


神に!?


「ご存じでしたか?
 神は死にませぬので、死ぬより酷い責め苦を与えられまする。

 人よりこっ酷くおやりなさい。
 血はいくら流しても構いませぬ。精神を抉るのも良う御座りまする。
 お好みで、御主らが思いつく加害と非道の限りを、思い思いにぶつけなされ。
 どうしても思い付かぬというなら、もう一度いらしてください。

 あぁそうそう、いくら削ぎ手折れどもかまいませぬが
 頭と心臓は最後まで残しましょう。

 よぉく民のお顔をお見せして、
 わからせて差し上げるのが良う御座りまする」


「これを、7人分」


「ど、ど……どういうことだ……!?」


「各小国には、人々の声を聞き届けるために神が遣わした写し身がいらっしゃるはずです。
 8番目の小国には八柄神ヤツカガミご自身がいらっしゃるので、他の小国の7人を
 寄ってたかって組み伏せて、痛めつけるのです。

 写し身とて神の一部、当然返り討ちにもされるでしょうが
 八柄神ヤツカガミご自身よりはまだ勝ちの目がありまする。
 そこは物量と、父より賜った技量で押し切ってくださりませ」


「写し身の本来の姿は、八柄神ヤツカガミが持つ"柄"。
 神が民たちを守るため、預けている武具。

 拷問が終われば、心の臓を突いて柄の姿に戻して差し上げましょう。

 柄には、御主らの打った刃を組み付けると良いでしょう」


「…………………我らを、守るため……
 よく言うな、あの穀潰しが」


「ふふふ……その怒りをどうか、写し身へ。

 七振りを手に入れたのなら、神に挑みなされ。
 七振りを持つ者が殺されたなら、すぐさま別の者が拾い上げなさい。
 決して、一本だけを奪われてはなりませぬ。

 さすればいつか、好機が訪れるでしょう」


「本当にできるのか、そのようなことが……」


「手段を選ばぬとは、こういうことに御座りまする。
 ただ足掻くだけでは、全滅しまするぞ」


「…………………わかった。

 成しましょう、必ず」

















ところで、汚染された神とは
月を司る神も例外では御座りませんでした。
この話はいつかまた、改めていたしましょうね。