ムラヤマ自然保護区北西部、北摩川源流。
神秘率の急上昇を受けて、北摩市は各機関の民間協力者にさえ
緊急の救援要請を発表した。
駆り出されるのは北摩テクノポリスの学生の中でも有数の実力者たち。
アスタにとってもよく知る人物たちが続々と現場へ急行する中で、
ついぞアスタ自身の元へ救援要請が届くことはなかった。
――しかし。
事態発生からある程度の時間が経った頃、カレントの通信回線を通じて
先遣隊からの救難信号が発される。
現在、先遣隊は壊滅。助力を求む――と。
>>5359258
既に各機関の実働メンバーはダウザー構成員の捜索に駆り出され、
救助活動が可能な人員に有力な候補者はいないだろう。
それはアスタの属するカレントラボラトリーズのメンテナンス部門、
カレントリペアラーズの第十三班でも同様だった。
それぞれ技術力はあれど、後方支援を得意とする周囲が尻込みする中で
拳を固く握って出撃の準備をし始めたのは赤髪の少年唯一人だった。
「ええい、止めてくれるな!
今は一分一秒を争う事態の筈だッ!」
>>5359445
そうして。
少年は真紅の愛機ロボタと共に、現場へと急行する。
常世の境目――
それは北摩川の水源にほど近い、表世界へ繋がる『境目』のひとつ。
……だが、その境目の先は表世界ではなく、モノクロの異なる世界を映していた。
境目のすぐ近くには、恐らくこの先で負傷し
離脱してきたであろうインターン生たちの姿があった。
>>5359568
「アスタちゃん!?」
そんな少年とロボットを、一人の少女が呼び止める。
支援役として同行していた幼馴染は、
今も負傷した人々を神秘の力を宿した補給箱で治療に当たっていたようで。
「救援要請に気付いて来たの……?」
その問いは、喜びとは違う。複雑な響きで。
けれど、人々が集まり声が飛び交うこの空間では、
言葉の奥にあるその声のトーンに、少年が気付くことは無いだろう。
>>5359847
インターン生から口々に声が上がる。
『リペアラーズの修理屋くんが何故ここに……!?』
『まさか救援? 無茶だ、手に負えるような相手じゃない……!』
そこにはきっと、蔑みの色は含まれてはいないだろう。
彼らの紡ぐ言葉のいずれもが、少年を思い遣っている。
この先に待つ脅威から、荒事への適正のない同胞を遠ざける為に。
「俺様はカレントリペアラーズ第十三班、都筑 明日汰!
救難信号を受けてあんたたちの救援に参じた者だ!!」
見知らぬインターン生にも伝わるように、大きな声で名乗りを上げる。
少年の横では子供大の機人がやる気を見せるように両腕を上げて
自らのやる気をアピールして見せた。
幼馴染の少女がその実力を認められ、
先んじて救援に駆り出されていたことなど知る由もないまま。
「今はこれ以上の救援を待つ時間も、戦力を捻り出す余裕も無い!
あとは俺様とロボタに任せて貰おう!!」
>>5360015
「アスタちゃん、他の13班の人は後から来るの?
……。 ! もしかして単独で来たの!?」
後に続いて現れる人々がいないのを確認して、少女は流石に声を上げる。
「アスタちゃん、それは流石に、みんなが言う通り無茶だよ。
言ってることはわかるし、アスタちゃんとロボタの戦力を疑ってはいないよ。
でも、危険すぎる。絶対にだめ!」
少女は珍しく、アスタの行動に真っ向から反対の意思を示す。
選択への批難も実力への不信もない。
そこにあるのは、ただ純粋に少年の無事を想う心で。
>>5360171
「キミノ……!?」
掛けられた声。その主の正体に、少年は目を丸くする。
――いいや。彼女が優れた技術者であることは知っている。
自分よりも先に呼ばれていることは、何もおかしなことではない――
そう、思い直せば。
「ああ、悪いがすぐに動けるのは俺様一人だ。
だがお前たちが止めようとも、俺様はこの先へ行くぞ!
中にはまだ取り残されているインターン生もいるのだろう!
事態は一刻を争うんだ! 俺様は待って後悔などしたくはない!
全員を救助して――全員で生きて帰るんだッ!!」
危険は承知の上だと、力強く宣言して。
少年は愛機を伴い、一目散に境目の向こう目掛けて駆け出した。
>>5360385
「ちょ、アスタちゃん! 話は全然終わって、」
駆け出していく背中に少女は声を張り上げる。
それでも止まらない幼馴染に、ふるりと拳を震わせて。
その手を、ぎゅっときつく握り、震えを抑える。















