RECORD
Eno.1672 椎名盟芽の記録
少し昔、海の向こうの国にとある無口な双子がいたらしい。
彼女らは自分たちだけの言語を操り、大人たちやクラスメイトとまったく会話をせず、お互いだけの世界で過ごす。その姿は歪なれど、双子の確かな絆を感じるように思えるが、事実は違う。片方の少女が己の片割れを牽制し、強制し、支配下に置いて、自分から逃れられないようにと。さらに、互いに強烈な劣等感を抱いていることもあり、双子は離れようにも離れられない。互いを傷つけ、壊そうとし、狂わせた。一緒に眠って、相手の首を絞め、家に火をつける。
――――――
北摩に来る前、まだ神秘に触れる前の盟芽には、ひどく仲のいい幼なじみの少女がいた。盟芽より少しお姉さんで、どこか変わっていて、けれどよく周りを見ている人。盟芽はとても――とてもなついていた。
当時の盟芽もまた、ひどく変わり者だった。会話はいつもとっちらかって、視線はせわしなく、じっと座っていることもままならない。他人を見たら逃げるように去ってしまう。よく泣いて、しかし周囲が手を貸そうとすれば癇癪を起こす。そのため、自然とお姉さん役の少女が面倒を見ることが多くなった。
盟芽は、幼なじみのお姉さんが言うことはすべて素直に従う。逆に、お姉さん以外が言うことは否定しようとする。ことあるごとにお姉さんの話をし、いま目の前にいる相手とお姉さんを比較し、お姉さんがどれだけ優れているかをひたすら語る。そして更に孤立する。
お姉さんは、そんな盟芽の手を引いて、いつも自分の部屋に招く。シール帳を見せて、お気にいりのお菓子を譲って、お人形遊びをして、仲睦まじく。
「メメちゃん。箱のぬいぐるみ全部出して」「いまから十数えるから、早くして」「はい。いち、にぃ、さん、しー、ご、ろく」「なに? なんで慌てたの? 別になにもしないよ。十数えただけだよ? でも慌てたってことは、メメちゃんは僕がなにかするって疑ったんだ」
「なんで謝るの。謝らなくていいんだよ」「メメちゃん、なにしていいかわからなくなるとすぐ謝るよね」「だからね、いまのもそうだねって言っただけだよ。怒ったわけじゃないの。僕のこと悪者にしないでね」「メメちゃん」
「うん。いい子」「かわいいね」「ごめんなさいより、そっちのほうがずっといいよ」「メメちゃんおいで、ここ座って」「仲なおりで、食べていいよ。チョコあげる」
「はい。あーん」「おいしい?」「素直なメメちゃんへのご褒美だよ、僕の分もあげる」「立たないで。まだ座っててね」「全部食べさせてあげるから」「全部食べるんだよ? メメちゃんが」
――――――
無口な双子は、支配者だった片割れが死ぬことで、ひとりになった少女がようやく自由を手にしたらしい。そんなお話。
鳥の囀り
少し昔、海の向こうの国にとある無口な双子がいたらしい。
彼女らは自分たちだけの言語を操り、大人たちやクラスメイトとまったく会話をせず、お互いだけの世界で過ごす。その姿は歪なれど、双子の確かな絆を感じるように思えるが、事実は違う。片方の少女が己の片割れを牽制し、強制し、支配下に置いて、自分から逃れられないようにと。さらに、互いに強烈な劣等感を抱いていることもあり、双子は離れようにも離れられない。互いを傷つけ、壊そうとし、狂わせた。一緒に眠って、相手の首を絞め、家に火をつける。
――――――
北摩に来る前、まだ神秘に触れる前の盟芽には、ひどく仲のいい幼なじみの少女がいた。盟芽より少しお姉さんで、どこか変わっていて、けれどよく周りを見ている人。盟芽はとても――とてもなついていた。
当時の盟芽もまた、ひどく変わり者だった。会話はいつもとっちらかって、視線はせわしなく、じっと座っていることもままならない。他人を見たら逃げるように去ってしまう。よく泣いて、しかし周囲が手を貸そうとすれば癇癪を起こす。そのため、自然とお姉さん役の少女が面倒を見ることが多くなった。
盟芽は、幼なじみのお姉さんが言うことはすべて素直に従う。逆に、お姉さん以外が言うことは否定しようとする。ことあるごとにお姉さんの話をし、いま目の前にいる相手とお姉さんを比較し、お姉さんがどれだけ優れているかをひたすら語る。そして更に孤立する。
お姉さんは、そんな盟芽の手を引いて、いつも自分の部屋に招く。シール帳を見せて、お気にいりのお菓子を譲って、お人形遊びをして、仲睦まじく。
「メメちゃん。箱のぬいぐるみ全部出して」「いまから十数えるから、早くして」「はい。いち、にぃ、さん、しー、ご、ろく」「なに? なんで慌てたの? 別になにもしないよ。十数えただけだよ? でも慌てたってことは、メメちゃんは僕がなにかするって疑ったんだ」
「なんで謝るの。謝らなくていいんだよ」「メメちゃん、なにしていいかわからなくなるとすぐ謝るよね」「だからね、いまのもそうだねって言っただけだよ。怒ったわけじゃないの。僕のこと悪者にしないでね」「メメちゃん」
「うん。いい子」「かわいいね」「ごめんなさいより、そっちのほうがずっといいよ」「メメちゃんおいで、ここ座って」「仲なおりで、食べていいよ。チョコあげる」
「はい。あーん」「おいしい?」「素直なメメちゃんへのご褒美だよ、僕の分もあげる」「立たないで。まだ座っててね」「全部食べさせてあげるから」「全部食べるんだよ? メメちゃんが」
――――――
無口な双子は、支配者だった片割れが死ぬことで、ひとりになった少女がようやく自由を手にしたらしい。そんなお話。