RECORD

Eno.414 水貝 弥白の記録

苦い夏の葡萄柚②

1日目:

裏世界の北摩市内でも端の領域、ここが今回の任地。
前線では未踏破地域の資源調査と新たなセーフゾーンの設営を。
後方では前線で負傷したスタッフの救助と生活の援助。

俺は後方の救護所が配属先だ。
3日間働く場所をカレント社から来ている医療スタッフに案内される。
医療者らしからぬ恵体を持ち、黙っているとかなり威圧感のあるその人は
存外に穏やかな口調で西木と自己紹介をしてくれた。なかなかのベテランスタッフらしい。

急ごしらえのプレハブ小屋には必要な物資が揃えられていた。
清潔な水と氷、ガーゼとテープ、最低限の種類の薬の箱、
聴診器、血圧計、体温計、同じ名前の点滴用のパック。
大量の衛生用品に段ボール製のベッド、毛布。漂う消毒液の匂い。
人の治療が求められる場面が否応なしに想像できる。

裏世界にこれだけの機材を持ち込むのだって簡単なことじゃないはず。
それだけ、正社員の人は危険な場所に行くんだろうなと思うと、小さくブルって。

「なんか、小さい病院みたいですね。あー…頑張ります」

月並みな感想しか出ないが、ちょっと声も気弱になっていた。

「そうだね。メディックやクレリックを履修している人の助けで
 一次救急並の初期対応をすることができるし、
 水貝くんは僕ら正規のスタッフとツーマンセルで動いてもらうことになるから、
 そんなに気負わなくても大丈夫だよ。」

西木さんが緊張を見透かすように声を掛けてくれる。
そうして言われた通り、午後から救護所の仕事を手伝うことになった。

俺等が担当した最初の訪問者は、片腕を押さえながら入ってきた気の良さそうな男性だった。
「悪い悪い。急に飛び出してきた怪奇がいてさ。
 避けようとして引っ掛けちまった。あっ西木さんがいるなら良かったや」
などと河島と名乗るその男は他の医療スタッフの人とも知り合いのようで
気安く、危険な仕事をしているような風には見えないような口ぶりで手当を受けに来ていた。

俺は西木さんの後ろについて傷口の洗浄と、神秘による癒やし、包帯の準備など
習ったことを一緒に、丁寧に行っていた。処置が終わった河島さんが前線に戻ると一旦暇ができ、
休憩に来た人にコーヒーを出したり、着替えを渡して少しでも休めるよう出来ることをして
その後は断続的に来る軽症の人を二人で診ているうちに一日が終わった。

「今日はお疲れ様、緊張した?」

「あーまぁ、でも出来ることがあってよかったです」

「まあね。治療系の神秘を履修している人は割合として多くないから
 大規模な企画が走っている時期は特にね。後方で待機してもらえると
 僕も助かるところが多いんだよ。」

そういうものなのかと納得し、交代の人が来て働き始めたタイミングで西木さんに挨拶をして家路につく。
慣れない仕事は気が張るし一日動いていたからなんだかんだで疲れた。
今日はよく眠れそう。