RECORD

Eno.227 朧 戒の記録

記憶の欠片2 閉ざした箱の中身

薄暗い神社境内に立っていた。
思い返すのは、あの日の記憶……。幼い友人達とした隠れ鬼の。

閉じた記憶の欠片
「もういいかい?」
「まぁだだよ。あと30数えて」
「わかったー。1,2……」

その日もいつも集まっていた神社の庭で、少年達はかくれんぼに興じていた。
鬼は自分。友人に言われたとおり、境内の柱に顔をうずめてゆっくりと30を数える。

「30!もういいかーい」
「もういいよ」「いいよ」「いいよー!」

遠くから合図が聞こえると、顔をあげる。
よし、探すぞと意気込んで友人の姿を探す。
ものの30分もしないうちに1人、2人とみつけだし、残すは最後の一人となった。

「どこに隠れてるのかな?」
「早くみつけて、次は走り鬼しようぜ」

友人達が口々につぶやく。
1時間程経ち、茂の裏や大木の影、階段の裏まで探したが、
境内の近くにはいないようだった。

「みつからないね、どうしようか……」
「裏山の方に行っちゃったのかな?」
「そうかも。僕、みてくるよ」
「駄目だよ、カイくん。
 裏山で遊んじゃ駄目って、神主さんが前に言ってたじゃん」

境内に居ないとなると、残る場所は裏山、森の中しかなかった。
だが事前に裏山に入って遊ぶなと厳しく言われていた。

「でも……。大丈夫だよ、ほんのちょっと探すだけだし。
居なかったらすぐに戻ってくる」

心配そうな友人達にそう告げると、森の中へと駆けだした。

「おーい、いないの?みんな心配してるよ、戻ろうよ、君の勝ち!」
でてきて、と声をあげるが、返事はない。
歩きながら、声をかけつづけていると、ころりと足元にどんぐりが転がって来た。
みつけた。嬉しくなり、どんぐりが転がって来た方向へと顔を向けた瞬間
目の前に大きな影がゆらりと躍り出てきた。

『ココハ オレ ナワバリ。オマエ オレ クウ』
大きな影は、ゲギャギャギャと奇妙な声をあげて笑う。
怪異、バケモノ、物の怪の類、この世のものではないと、直感した。

ガタガタと歯が鳴り震えた。走り出せ、振り返って逃げろ。
本能ではわかっていたが足がすくんで動かない。
空を斬る音がして、とっさに腕を前に出し目を閉じた。

『人の子か?まよい子か。小僧、はよぅ逃げぇ』

柔らかな声色。その声が聞こえたと同時に、石のように固まっていた足が軽くなった。
踵を返して、走り出す。

『そうそう、その調子。逃げぇ逃げぇ』

柔らかな声が聞こえる方角へ、足を動かす。無我夢中だった。
大きな影は、逃げた先まで追いかけては来なかった。

……

とぼとぼと境内の庭まで、戻って来たが
友人の1人は姿を消したままだ。

逃げて、逃げて、声を辿って逃げた先にいたのは、小さな狐。

『小僧、貸しひとつじゃな』

「き、狐がしゃべってる」

『おうおう、儂が見張ってるうちにさっさと立ち去るがよいぞ』

「なんで、でもまだ……」

『忘れろ、小僧。それが一番の幸せぞ』
『忘れる事が難しいのなら、儂が手助けをしてやろう』

そう言うと狐はひとつ吠えて、黒い狐が現れた。
一匹、また一匹と黒い狐が周りに増えて行く。
円を一周するように囲まれて、どきどきしているうちにおーいと遠くから声がした。
がさがさと茂みをかきわけて友人達が顔をだす。
隠れ鬼でみつける事ができた友人達。1人は戻らない。1人だけ、みつからなかった。
辺りは暗くなり、もう帰る時間となる。

その日からずっと、見つからなかった友人は戻る事はなかった。
その友人のお父さんとお母さんはどこかへ引っ越して行った。

そうして神社であそんでいた僕たちは学年が変わると同時に一緒に遊ぶことはなくなった。

何故、忘れていたのか。
裏世界に紛れて、景色の変わる様をみて思い出すなんて
狐が何かをしたのかもしれないが、そんな事は些細なことで
己の薄情さに嫌悪した。強烈に来る吐き気と眩暈。

怖い……暗闇も 俺自身も。
裏世界も、あの時みたバケモノも。

『抗え 全てをねじ伏せるために』

内なる声が囁いた気がした。