RECORD
Eno.110 紅坂 一途の記録
一途に咲く花 4
菘さんは男……泰のことをよく話すようになった。
ちんけな花街には女を買いに来ていたんじゃないってこと。
弱者に手を差し伸べて回るのがそいつの仕事で少しずつ街も良くなっていっているということ。
次は何時会いに来てくれるんだろうかと、どこか照れたように眉を下げて菘さんは笑っていた。
泰を心の底から好いているんだろう、なんてことは俺じゃなくたってわかる程だった。
菘さんがそんな風に分かりやすいもんだから、街の奴らには散々残念だったねと言われたよ。
余計なお世話だっていうのにな。腹立つことに頑張れ、の一言もないんだぜ。
そりゃ、俺が声をかける立場だったら同じことを言うだろうけれど。
それくらい勝ち目がなかったし、
明らかに俺に対抗する気概なんて見受けられなかっただろうから。
泰という男は本当に腹が立つ程立派な男だった。
俺に大して恋敵だとか言っておいて俺に商売について学べる機会を与えてくれたり、
金や権力に物を言わせて菘さんを独占するようなこともしなかった。
俺にもちゃんと菘さんと二人きりで話せる機会を残しておいてくれたりした。
困った時は頼ってくれていいだなんて兄貴風吹かせては飯を奢ってくれたりもした。
本当に腹が立つ男だった。嫌ってやりたいのに嫌いになれるところがないのだから。
この人ならきっと菘さんを幸せにしてくれるんだろうなと、思わされてしまうのだから。
そうこうしている内に菘さんと泰は祝言をあげることになった。
当然と言えば当然で、俺だってそうなるだろうなとわかっていた。
諦めてしまった恋心もその頃にはもうずっと静かになってしまっていて、
菘さんの為に貯めていた金から二人への祝いの品を買おうと思えるほどだった。
あの人なら、泰ならきっと、菘さんを幸せにしてくれる確信があった。
……それでも、何故だかちょっとだけ未だ悔しくて。
二人への贈り物の他に、菘さんに宛てた簪を気づけば買ってしまっていた。
一輪の椿の意匠が美しい簪。こんな物を嫁ぐ人に渡すのなんてどうかしてるけど。
菘さんはきっと弟のように可愛がっていた存在からの贈り物だと喜んでくれる。
他の男からの贈り物、だなんてきっと思わないだろう。……そんな確信もあった。
二人の祝いの日は太陽のような二人に相応しく、澄み渡った青空だった。
心の底から祝福したいのに、そうもいかない複雑な心と贈り物を抱えて、
明日からは菘さんと泰の家になる場所へ向かって歩いていた。
足取りは、やっぱり軽いとは言い難い物だったけれど。
祝福しないでいるのもまた、違うだろうなという気持ちで向かっていた。
二人に対面したら、きっと、笑ってお祝いを口にできるようにと決意しながら。
──でも、そんな決意は無意味と化す。
轟々と聞いた事もないような音を立てながら、その家は燃えていた。
中に、菘さんと泰を残したまま。
赤黒い火を、噴いていた。
ちんけな花街には女を買いに来ていたんじゃないってこと。
弱者に手を差し伸べて回るのがそいつの仕事で少しずつ街も良くなっていっているということ。
次は何時会いに来てくれるんだろうかと、どこか照れたように眉を下げて菘さんは笑っていた。
泰を心の底から好いているんだろう、なんてことは俺じゃなくたってわかる程だった。
菘さんがそんな風に分かりやすいもんだから、街の奴らには散々残念だったねと言われたよ。
余計なお世話だっていうのにな。腹立つことに頑張れ、の一言もないんだぜ。
そりゃ、俺が声をかける立場だったら同じことを言うだろうけれど。
それくらい勝ち目がなかったし、
明らかに俺に対抗する気概なんて見受けられなかっただろうから。
泰という男は本当に腹が立つ程立派な男だった。
俺に大して恋敵だとか言っておいて俺に商売について学べる機会を与えてくれたり、
金や権力に物を言わせて菘さんを独占するようなこともしなかった。
俺にもちゃんと菘さんと二人きりで話せる機会を残しておいてくれたりした。
困った時は頼ってくれていいだなんて兄貴風吹かせては飯を奢ってくれたりもした。
本当に腹が立つ男だった。嫌ってやりたいのに嫌いになれるところがないのだから。
この人ならきっと菘さんを幸せにしてくれるんだろうなと、思わされてしまうのだから。
そうこうしている内に菘さんと泰は祝言をあげることになった。
当然と言えば当然で、俺だってそうなるだろうなとわかっていた。
諦めてしまった恋心もその頃にはもうずっと静かになってしまっていて、
菘さんの為に貯めていた金から二人への祝いの品を買おうと思えるほどだった。
あの人なら、泰ならきっと、菘さんを幸せにしてくれる確信があった。
……それでも、何故だかちょっとだけ未だ悔しくて。
二人への贈り物の他に、菘さんに宛てた簪を気づけば買ってしまっていた。
一輪の椿の意匠が美しい簪。こんな物を嫁ぐ人に渡すのなんてどうかしてるけど。
菘さんはきっと弟のように可愛がっていた存在からの贈り物だと喜んでくれる。
他の男からの贈り物、だなんてきっと思わないだろう。……そんな確信もあった。
二人の祝いの日は太陽のような二人に相応しく、澄み渡った青空だった。
心の底から祝福したいのに、そうもいかない複雑な心と贈り物を抱えて、
明日からは菘さんと泰の家になる場所へ向かって歩いていた。
足取りは、やっぱり軽いとは言い難い物だったけれど。
祝福しないでいるのもまた、違うだろうなという気持ちで向かっていた。
二人に対面したら、きっと、笑ってお祝いを口にできるようにと決意しながら。
──でも、そんな決意は無意味と化す。
轟々と聞いた事もないような音を立てながら、その家は燃えていた。
中に、菘さんと泰を残したまま。
赤黒い火を、噴いていた。