RECORD
Eno.609 結祈 夜呼の記録
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叔父を呼び出して話を聞く。
私は知らない事が多すぎて、この先ちゃんと生きて行く為には解消しなければいけない問題が多かった。
そして、友人との約束を果たすためにも知らなければいけない。
この身体の謎を、解かなければならない。

復讐。
そんなことが理由なのだと叔父は言う。
先ずは結祈家が抱えた復讐の話からしよう、そう叔父は言った。
この先は、叔父が語ってくれた話だ。
──
───……
遥か昔、怪奇がまだ怪異として各地に存在していた頃。
鎌鼬の三兄弟も伝承の通りに山で里で人を転ばせ斬りつけ薬を塗ってそんな風に生きていた。
ある日、わけのわからない怪異に彼らは襲われた。
その影のような怪異は『喰らう』事を目的としていた。
存在を喰らい、その力を得て、相手の存在を我がモノとする……そんな事を得意とする怪物だった。
先ず喰われたのは二匹目の鎌鼬。
不意打ちのように喰われたそれは一瞬で相手の力となった。
……怪異として戦う力が鎌鼬にあるとすれば二匹目にある。
その時点でもう敵う訳もなく、次に狙われたのは転ばせ。
風を繰り避ける事に全力を使った転ばせは何とか一度はその牙から逃れたがすぐに致命傷を得た。
万事休す、そこでその場に陰陽を名乗る狩衣姿の人間が現れた。
それは一瞬で影を打ち払い残された鎌鼬の兄弟を助けた。
男は鎌鼬に恩を売り、彼らに生き延びる為に術を教え、人間に化けて暮らすように仕向けた。
一匹欠け、鎌鼬としての存在が揺らぐ彼らに、自らをもう一匹として存在の補完するように提案し。また、別の姿を与え別のモノに変化させ術式を与え安定させた。
……おかしい話だ。
人間を間に入れて補完する事がどうしてできようか?
二匹目を喰った影ならいざ知らずだ。
簡単な話だ、都合よく現れたそいつがそうだった。
ただ恩を売りつけられた怪異はそんな事を考える知恵もなく、力もなかった。
……怪異の獣の性でな、人間に恩を売られれば我々は靡くように出来ているのだよ。
それは、そういうものだったというのもある。
伝承に伝えられるような怪異達は、善いモノも悪しきモノも人に沿って存在している。
生き残った二匹は陰陽の男に人の名を与えられた。
一匹目の転ばせを『日々呼』
三匹目の薬使いを『夜呼』
この二人が結祈家の祖となる……いや、正しくは三匹目の夜呼が人としてそうなった。
陰陽の男には目的があった。
鎌鼬の薬の力を増幅させ、利用し……人魚の肉を無害化する事。
人魚の肉の伝承は不老不死が有名ではあるが、喰う事で人魚になってしまう…全身に鱗が生えてきて醜く崩れるという伝承も存在している。
男が手に入れた人魚の肉はそのどちらの伝承も内包していたのだろう。
男は不老不死を欲した。
しかし、見目麗しい自分の姿も維持したかった。
改善すべきは外見の変化の問題、皮膚の問題、……鎌鼬の薬に目を付けた。
鎌鼬の薬は切った傷を治すとしか伝えられていない。だがそれこそが利用すべき概念。
現在、現象として。また怪奇として『突風によって巻き上げられた鋭利な小石や木の葉が皮膚に当たることや、皮膚表面が気化熱で冷やされ組織が変性することで裂ける生理学的現象』とされている鎌鼬だが伝えられている伝承はそれだけではない。
まだ怪異として存在する我々は殆ど別の存在「神威太刀」として生き残る怪異だ。
付けられた傷を薬師に治させねば死ぬ、鎌鼬の傷は神が付けた太刀傷である……
各地にある解明不可能な伝承を存在強化する事によってどうなるか。
その三番目の薬はそのような傷も一瞬で治してしまう概念へと変化する。
男は三番目を戦に連れ出し戦場で殿に献上しその周囲の…重鎮たちの傷を治させる事で人間にその薬効を信じさせた。
そうして、十分に薬効を強化して……三番目に人魚の肉を喰わせた。喰わせ続けた。
変化してゆく己の身を治さないわけはない。
だが鎌鼬が治せるのは毒ではない、傷だ。
三番目は肉体を維持しながら中身は人魚に変えられてゆく。
美しいまま、鎌鼬として力を残したままに人魚の肉をその身の内で形成したと確信した頃。
男はついに三番目を喰らって不老不死を得た。
……違うものも男は得る事になったが、それは別に話すとしよう。
男は残された一番目を嘲笑うように、肉の無くなった三番目の毛皮を残された三番目の子らに持たせ『結祈の祖先』たちに返した。
そうなって初めて我々は気が付いたのだよ。
私達はあの陰陽の男、いや悪鬼に。
家族を蹂躙され奪われたのだと。
それが結祈家のもつ恨みだ。
我らは滅しなければならない。北摩に逃げのびたあの男『荒木鯨』を。
それが結祈家が抱える復讐だ。
その筈だったのだ。
──……
──
鎌鼬と人魚
ここは教会展望台。
そして地下道と表を繋ぐ階段の…いや、辛うじて裏世界に踏み込もうというその場所。
「叔父さん……」
夜呼はきっと全てを知る親戚の、その名に問いかける。
「結祈阿膠、貴方に話があって来ました」
>>6262015
「誰の意思で、何の為に
結祈夜呼は北摩に送られたのか」
雪ノ里製薬の発展の為。怪異の力を取り戻し利用する為に。
……そんな事はわかっている。
だがそれは説明になっていないのだ。
何故、先祖返りという方法がとれると思っているのか。
そして今現在に向けて脈々と仕込まれた濁った血脈に対しても。
「科学が神秘を凌駕する以前から、何故結祈は鎌鼬の血を人の社会に紛れ込ませながら続けたのか。
そこまでして何故、やっと出来た子をこの地に送り込んだのか」
考えに考えた疑問。
鎌鼬の血、変身する我が身、伏戸神……複雑に絡まる理由の前に先ず知るべきはそこなのだと。
叔父を呼び出して話を聞く。
私は知らない事が多すぎて、この先ちゃんと生きて行く為には解消しなければいけない問題が多かった。
そして、友人との約束を果たすためにも知らなければいけない。
この身体の謎を、解かなければならない。

「それら全てを語るには骨が折れような…
しかし簡潔に語るのであるならばすべては復讐の為だ」
「家族を奪われ性質を大きく狂わされた怪異共の」
「呪いに敗れ、この地に囚われた者の」
「実に個人的な復讐により、我等結祈の一族は人生を狂わされてきたのだよ」
復讐。
そんなことが理由なのだと叔父は言う。
先ずは結祈家が抱えた復讐の話からしよう、そう叔父は言った。
この先は、叔父が語ってくれた話だ。
──
───……
遥か昔、怪奇がまだ怪異として各地に存在していた頃。
鎌鼬の三兄弟も伝承の通りに山で里で人を転ばせ斬りつけ薬を塗ってそんな風に生きていた。
ある日、わけのわからない怪異に彼らは襲われた。
その影のような怪異は『喰らう』事を目的としていた。
存在を喰らい、その力を得て、相手の存在を我がモノとする……そんな事を得意とする怪物だった。
先ず喰われたのは二匹目の鎌鼬。
不意打ちのように喰われたそれは一瞬で相手の力となった。
……怪異として戦う力が鎌鼬にあるとすれば二匹目にある。
その時点でもう敵う訳もなく、次に狙われたのは転ばせ。
風を繰り避ける事に全力を使った転ばせは何とか一度はその牙から逃れたがすぐに致命傷を得た。
万事休す、そこでその場に陰陽を名乗る狩衣姿の人間が現れた。
それは一瞬で影を打ち払い残された鎌鼬の兄弟を助けた。
男は鎌鼬に恩を売り、彼らに生き延びる為に術を教え、人間に化けて暮らすように仕向けた。
一匹欠け、鎌鼬としての存在が揺らぐ彼らに、自らをもう一匹として存在の補完するように提案し。また、別の姿を与え別のモノに変化させ術式を与え安定させた。
……おかしい話だ。
人間を間に入れて補完する事がどうしてできようか?
二匹目を喰った影ならいざ知らずだ。
簡単な話だ、都合よく現れたそいつがそうだった。
ただ恩を売りつけられた怪異はそんな事を考える知恵もなく、力もなかった。
……怪異の獣の性でな、人間に恩を売られれば我々は靡くように出来ているのだよ。
それは、そういうものだったというのもある。
伝承に伝えられるような怪異達は、善いモノも悪しきモノも人に沿って存在している。
生き残った二匹は陰陽の男に人の名を与えられた。
一匹目の転ばせを『日々呼』
三匹目の薬使いを『夜呼』
この二人が結祈家の祖となる……いや、正しくは三匹目の夜呼が人としてそうなった。
陰陽の男には目的があった。
鎌鼬の薬の力を増幅させ、利用し……人魚の肉を無害化する事。
人魚の肉の伝承は不老不死が有名ではあるが、喰う事で人魚になってしまう…全身に鱗が生えてきて醜く崩れるという伝承も存在している。
男が手に入れた人魚の肉はそのどちらの伝承も内包していたのだろう。
男は不老不死を欲した。
しかし、見目麗しい自分の姿も維持したかった。
改善すべきは外見の変化の問題、皮膚の問題、……鎌鼬の薬に目を付けた。
鎌鼬の薬は切った傷を治すとしか伝えられていない。だがそれこそが利用すべき概念。
現在、現象として。また怪奇として『突風によって巻き上げられた鋭利な小石や木の葉が皮膚に当たることや、皮膚表面が気化熱で冷やされ組織が変性することで裂ける生理学的現象』とされている鎌鼬だが伝えられている伝承はそれだけではない。
まだ怪異として存在する我々は殆ど別の存在「神威太刀」として生き残る怪異だ。
付けられた傷を薬師に治させねば死ぬ、鎌鼬の傷は神が付けた太刀傷である……
各地にある解明不可能な伝承を存在強化する事によってどうなるか。
その三番目の薬はそのような傷も一瞬で治してしまう概念へと変化する。
男は三番目を戦に連れ出し戦場で殿に献上しその周囲の…重鎮たちの傷を治させる事で人間にその薬効を信じさせた。
そうして、十分に薬効を強化して……三番目に人魚の肉を喰わせた。喰わせ続けた。
変化してゆく己の身を治さないわけはない。
だが鎌鼬が治せるのは毒ではない、傷だ。
三番目は肉体を維持しながら中身は人魚に変えられてゆく。
美しいまま、鎌鼬として力を残したままに人魚の肉をその身の内で形成したと確信した頃。
男はついに三番目を喰らって不老不死を得た。
……違うものも男は得る事になったが、それは別に話すとしよう。
男は残された一番目を嘲笑うように、肉の無くなった三番目の毛皮を残された三番目の子らに持たせ『結祈の祖先』たちに返した。
そうなって初めて我々は気が付いたのだよ。
私達はあの陰陽の男、いや悪鬼に。
家族を蹂躙され奪われたのだと。
それが結祈家のもつ恨みだ。
我らは滅しなければならない。北摩に逃げのびたあの男『荒木鯨』を。
それが結祈家が抱える復讐だ。
その筈だったのだ。
──……
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