RECORD

Eno.686 黒松 実の記録

海の底の白鳥

高校は中学からの持ち上がり。
多少の人の入れ替わりはあるのだろうが、元から同学年の人たちとそんなに関わりがなかったので正直よくわからない。
めんどくさい入学式が終わって、HRがあって、帰る。
新しいクラスメイトたちがわいわい話しているのを横目にひとり帰路に就く。
今までとなんら変化はなかった。

みんなが着ている制服は新品できれいだった。
自分の、兄のお下がりのくたびれたブレザーはなんだかその中で浮いている気がして少し恥ずかしく、次の日からは着ていくのをやめた。
入学祝にと兄姉から貰ったワイヤレスイヤホンは、昨日すでに片方失くしてしまったので今日はずっと使っている有線のもの。
そして今日から通常授業。
そうなるといよいよ今までとの変化などなにもなかった。

強いて言うなら、昨日は気づかなかったが同じクラスにあの・・白樫日向がいるということ。
だからといって何があるわけでもないけど。
つい思い出してしまうのは、中二のときに同じクラスだったあの子。
結局三年でクラスが変わったらそれ以降話すこともなく、噂で外部の高校を受験したということを聞いた。
だからきっと、今は違う高校に行ってしまったのだろうけど想像してしまう。
あの子がこのクラスにいたら、きっと喜んだのだろうな……と。

間近で見る白樫日向は、同じ男の自分から見てもかっこいいなと感じた。
整った顔立ち、スタイルの良さ、姿勢の良さ、言動の上品さ。
女子たちが王子様と騒ぐのも納得だ。

自分が白樫のように少しでもなれたら、と考えたことがないわけでもないがきっと生まれ変わらないと無理だなと思い知らされたようだった。
住む世界が違う。 まさにその一言に尽きる。


そんなことを考えながら面白くない高校生活が一週間ほど経った頃だった。

「黒松君、今日提出のプリントなんだけど…」

びっくりした。
あの白樫日向が自分なんかの名前を知っていたなんて。
パーフェクト優等生はさすがだなんて思った。
きっとただたまたまクラスメイトになったからというだけなのだろうけど、少しだけ…ほんの少しだけ嬉しかった。

だってそれが高校に入ってから初めて・・・クラスメイトに声を掛けられた出来事だったから。

きらきらと効果音のつきそうな笑顔を問題児といわれる自分にも向けてくれる白樫日向は、きっと性格もその見た目と同様、完璧なのだろうと思った。
人に悪意など向けられることもなく、ずっとこの先も生きていく…そういう人なのだろうと。
人から嫌われる要素などないのだから……実際、休み時間に白樫と話がしたい奴らが周りに集まっているのをよく目にする。

とことん、自分という存在とは真逆に位置する人間なのだろうと痛感する。
人間の汚いところなどとは無縁の、真っ白で純真な王子様。
それが白樫日向という人なのだろう、と。



──それが間違いだと気づくのは、もう少し後の出来事。