RECORD

Eno.623 飯田飯太の記録

愛しい我が家

「ここが今日から、俺のアジトか…」


京桜工業団地倉庫街の一角、数か月前につぶれた会社の倉庫の前でひとり呟く。
バイト感覚で始めたハッカー業。
口コミや、ネットで困っていそうな人に声をかけたり依頼されたりで2年、こんな物件を手に入れることができるほど上手くいくとは思っていなかった。

「会社が潰れた原因を調査したら残った倉庫をやるって言われた時は、本当か疑ったけどいい依頼だったなぁ」


企業スパイと俺みたいなハッカーの合わせ技で、特許申請前の全商品を盗まれたらしい。
その犯人二人と、その証拠を見つけて社長に渡すことで、ここの倉庫の鍵と権利書を渡されたわけだが、真っ当に訴えて勝てるのだろうか。

「まぁ、そこまでは俺の仕事じゃないけど。さっそくアジトの改造に取り掛かりますか。」


まずは鍵をパスワード式の電子錠に取り換える。あの社長を信用していないわけじゃないが、社員に合鍵を持ってるやつがいてもおかしくないしな。
次に倉庫の中の確認。売り出されるはずだった、発売前のたくさんの機械たちが所狭しと押し込められていた。整理するのは大変そうだ。

そして最後、依頼を受けた最大の理由はこれだ。
倉庫番のために作られた小さなプレハブ。カギを開けて中に入ると、淀んでいた空気が入れ替えられる。気密性はよさそうだ。
社長曰く、電源は倉庫から引っ張ってきているようで、水回りはプレハブに無いが、トイレが倉庫の方に一個あるらしい。クーラーもついている。

普通に暮らすには少し不便だが、寮暮らしの俺がアジトとして使う分には申し分ない。
上機嫌になりながらプレハブの中を片付けていく。

業者を呼んだり人に頼むわけもいかないので、結局部屋を片付けてサーバーやPCをアジトに完全に移設できたのは数週間後、不便なくアジトが機能するようになったのはさらに数週間後だったが、その間もずっと俺は上機嫌だった。


例の社長が、連続殺人事件の犯人として捕まるまでは。