RECORD
Eno.14 卯日 蜜奈の記録
![]()
長い長い暗闇を抜けて気がついた時。

怪奇の桜空先輩が心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。


慌てて飛び退く。いや、本当に、桜空先輩が大変なことになってる間
あたしも色々ありすぎたせいで纏まったリアクションができなかった
けどこの怪奇の桜空先輩ってすごく危ない魅力というか目を離せない
魔力みたいなものを持ってて至近距離では心が保たなすぎる!!
「よかった、気が付いたんだな」
そんなあたしを見て気を悪くすることはなく、
むしろ先輩は微笑ましそうな表情をしていた。早くあたしを地中とかに埋めてください。


「神秘管理局 駐屯地裏広場」
「うちの庭だよ」
身体を起こして、周囲を見る。
向こうには管理局の駐屯地。遠くにはとうふとかとりとかが適当にひしめいていて、
協力者が駆けつけては散発的な戦闘を行っている。
あの子に会った場所って本当に裏世界のその辺だったのだが。
彼女が運んできてくれたのかな?
「兎に角、もう遅い時間だから早く帰らないと。
色んな人に心配されちゃうよ?」

背を向けて歩き出そうとする先輩には、慌てて「あ」と声が出る。
そんな些細な音に気づいて、振り向いてくれる気遣いには申し訳ないのだが。
「す、すみません、あたし、今は……」
「戻れないんです」
首を傾げていたものの、
また近づいてきて、まじまじとこちらのことを見る。
猛禽のような瞳。けれど、獲物を品定めしているとかじゃなくて。
あたしに何か異変がないか確かめている。
衛生課志望と言っていたのは、表の桜空先輩だっけ。

あなたにも覚えがあるだろう、と。
そう噛み砕いて伝えたら漸く合点が行った様子で。


いや、話が何か食い違っているような。
家はもう一人のあたしに任せているわけで、家出というわけでは。
「分かるよー。俺もそういうときがあったから」
「いや、その、そういうわけじゃ……」
「違うの?」
「大切な家族も素敵な友達も振り切って」
「君は一人でやりたいことをしようとしてる」
──びく、と肩が震えた。

ゆったりと指をさして、笑みはどこか意地の悪そうに。
それは──何も言い返すことが、できない。
実際家族にも友達にも言えないことをしているのには違いない。
家出そのもの、とは認められないにしろ、非行ではないとは言い切れない。
「責めてるわけじゃないよ。
オレは夢追い人は応援したくなる性分なんだ」
また少し後ろに退いて、彼はずっと、笑みを浮かべている。
「表のあの子と違ってオレは君にさして思入れはないんだけど……
でも、暫くは面倒を見てあげる。優しいから」
「それで、取り返しのつかないことにならないよう、
危ない時は代わりにブレーキを踏んであげる」

ね。一層笑みを深めて。
それを言われたあたしは、やっぱり今までだったら、
言葉に詰まって何も言えなかったかもしれないけど。
「……そうですね」
「ありがとうございます、その。事情を聴かずにいてくれて」
「オレはまあ別に?怪奇だからね。……ってのは置いといて」
「何処かのお節介なお兄さんに、反抗期なら~って言わたりしてない?」

あ、と。そういえばと。
身を燃して削るのはよくないが、反抗期としてなら少しぐらい──なんて教わったっけ。
それを先輩は聞いてなかったはずだけど、まあ。
やっぱり彼は姿が変わっても桜空先輩なんだな、なんて思ったりして。
「それじゃ一旦管理局についてきて。
表は"任せて"大丈夫だとしても、
裏で全部誤魔化し切ることなんてできないから」
「表で授業受けられない分の勉強もしなくちゃだし、
ほら、歌のレッスンとかもあるでしょ?」
向かう先を変えて、また踵を返し先導しようとする。
今回はあたしも。大人しくついていく運びになった。

「でも──」

「分かってます」
「人は独りで生きていくことはできなくて」
「あたしがここにいることを選んだ今、
改めて自分ができることを探すために、沢山の人を頼らなくちゃならない」
「理想のあたしも──多分、永遠ではないから」
今は良い。今は、あたしの好かれる部分だけが表にあると言える。
でも数年もして、何にもボロを出さないというのはあたしには難しいだろう。
あるいはあたしが。表の暮らしを羨んでしまう日がくるかもしれない。
あたしの欲求を、裏に隠したままにできなくなってしまうかもしれない。
これが終わりじゃない。これが始まり。何度だって自分に言い聞かせる。
より優れた方法を、常に考えていなくてはならない。
「暫くはよろしくお願いしますね、センパイ」
深々と頭を下げて。それから、一度神秘管理局に向かうのであった。
心は落ちて、射貫かれて
「────」
長い長い暗闇を抜けて気がついた時。

「あ」
怪奇の桜空先輩が心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。

「……?」

「!」 「!!?!?」
慌てて飛び退く。いや、本当に、桜空先輩が大変なことになってる間
あたしも色々ありすぎたせいで纏まったリアクションができなかった
けどこの怪奇の桜空先輩ってすごく危ない魅力というか目を離せない
魔力みたいなものを持ってて至近距離では心が保たなすぎる!!
「よかった、気が付いたんだな」
そんなあたしを見て気を悪くすることはなく、
むしろ先輩は微笑ましそうな表情をしていた。早くあたしを地中とかに埋めてください。

「びっくりしたよ、本当に。
いつもみたいに巡回してたら君がいるんだもの」

「ここって……」
「神秘管理局 駐屯地裏広場」
「うちの庭だよ」
身体を起こして、周囲を見る。
向こうには管理局の駐屯地。遠くにはとうふとかとりとかが適当にひしめいていて、
協力者が駆けつけては散発的な戦闘を行っている。
あの子に会った場所って本当に裏世界のその辺だったのだが。
彼女が運んできてくれたのかな?
「兎に角、もう遅い時間だから早く帰らないと。
色んな人に心配されちゃうよ?」

「ついてきて、表世界に案内してあげる」
背を向けて歩き出そうとする先輩には、慌てて「あ」と声が出る。
そんな些細な音に気づいて、振り向いてくれる気遣いには申し訳ないのだが。
「す、すみません、あたし、今は……」
「戻れないんです」
首を傾げていたものの、
また近づいてきて、まじまじとこちらのことを見る。
猛禽のような瞳。けれど、獲物を品定めしているとかじゃなくて。
あたしに何か異変がないか確かめている。
衛生課志望と言っていたのは、表の桜空先輩だっけ。

「その……」「今はもう、表にはあたしがいるんです」
「だから、戻るわけにはいかない」
あなたにも覚えがあるだろう、と。
そう噛み砕いて伝えたら漸く合点が行った様子で。

「……蜜奈ちゃん、君」
「家出中なんだ」

「え?」
いや、話が何か食い違っているような。
家はもう一人のあたしに任せているわけで、家出というわけでは。
「分かるよー。俺もそういうときがあったから」
「いや、その、そういうわけじゃ……」
「違うの?」
「大切な家族も素敵な友達も振り切って」
「君は一人でやりたいことをしようとしてる」
──びく、と肩が震えた。

「可愛い非行少女ちゃん」
ゆったりと指をさして、笑みはどこか意地の悪そうに。
それは──何も言い返すことが、できない。
実際家族にも友達にも言えないことをしているのには違いない。
家出そのもの、とは認められないにしろ、非行ではないとは言い切れない。
「責めてるわけじゃないよ。
オレは夢追い人は応援したくなる性分なんだ」
また少し後ろに退いて、彼はずっと、笑みを浮かべている。
「表のあの子と違ってオレは君にさして思入れはないんだけど……
でも、暫くは面倒を見てあげる。優しいから」
「それで、取り返しのつかないことにならないよう、
危ない時は代わりにブレーキを踏んであげる」

「そう」
「それだけが先達の務めというものだと思うんだ」
ね。一層笑みを深めて。
それを言われたあたしは、やっぱり今までだったら、
言葉に詰まって何も言えなかったかもしれないけど。
「……そうですね」
「ありがとうございます、その。事情を聴かずにいてくれて」
「オレはまあ別に?怪奇だからね。……ってのは置いといて」
「何処かのお節介なお兄さんに、反抗期なら~って言わたりしてない?」

「それに関しては同感だからね」
あ、と。そういえばと。
身を燃して削るのはよくないが、反抗期としてなら少しぐらい──なんて教わったっけ。
それを先輩は聞いてなかったはずだけど、まあ。
やっぱり彼は姿が変わっても桜空先輩なんだな、なんて思ったりして。
「それじゃ一旦管理局についてきて。
表は"任せて"大丈夫だとしても、
裏で全部誤魔化し切ることなんてできないから」
「表で授業受けられない分の勉強もしなくちゃだし、
ほら、歌のレッスンとかもあるでしょ?」
向かう先を変えて、また踵を返し先導しようとする。
今回はあたしも。大人しくついていく運びになった。

「だめだな、あたし。結局、表の荷物を一旦降ろしても、
裏のことだけでも、まだ……誰かを頼らないといけない」
「でも──」

「そういうもの、ですよね」
「分かってます」
「人は独りで生きていくことはできなくて」
「あたしがここにいることを選んだ今、
改めて自分ができることを探すために、沢山の人を頼らなくちゃならない」
「理想のあたしも──多分、永遠ではないから」
今は良い。今は、あたしの好かれる部分だけが表にあると言える。
でも数年もして、何にもボロを出さないというのはあたしには難しいだろう。
あるいはあたしが。表の暮らしを羨んでしまう日がくるかもしれない。
あたしの欲求を、裏に隠したままにできなくなってしまうかもしれない。
これが終わりじゃない。これが始まり。何度だって自分に言い聞かせる。
より優れた方法を、常に考えていなくてはならない。
「暫くはよろしくお願いしますね、センパイ」
深々と頭を下げて。それから、一度神秘管理局に向かうのであった。