RECORD
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翼
「ほぉん。日曜日、無視はでけたけど自傷行為はやらかしたか。
やっぱごオールナイトごっ〇ぃせんとあかんな」

誠
「俺が寝落ちした挙句次の日学校に遅刻すんねんな。寝坊で」

翼
「手の皮膚噛みちぎった挙句精神状態グズグズんなんのと
どっちの方がマシやと思う?」

誠
「…………遅刻の方が後々面倒やない?」

翼
「おいこら自己犠牲精神拗らせ野郎が」
月下美人を見に行く会は辞退して、夜に親友に電話をかけた。
夜が遅かったのと、ちょっと左手の状態が状態で行くにいけなかったからだ。
あとは少し、精神的に持たない気がしたもので。
報告は直近の兄貴からの電話に対するリアクションと、恋人と月見に行ったこと。
ケッッッ!! と、唾を吐き捨てられるような音が聞こえたけどそれはまあ置いておこう。

翼
「兄貴からの電話のことで連絡した、っちゅうんは結局黙ったまんまなん?」

誠
「お前には話しとる」

翼
「せやからお前はナチュラルに嘘ついて誤魔化すんやめぇつっとんのや。
素直に言うたらええやろが」

翼
「いや境遇的に難しいんは分かっとんで?
けど、何でもかんでも隠っしょったらお前の身が持たへんやろ。
現に俺にこうやって電話かけてきてもとるし」

誠
「……気ぃ遣われたくないし、心配してほしくない。
俺に気ぃ遣うくらいやったら自分のこと優先してほしい」

誠
「それに……俺よりも大変な目遭っても頑張っとる。
俺の悩みなんか些細なもんや」

翼
「あ、なに?
もしかして俺はお前より楽観的でお悩みないからって
愚痴の矛先になっとる? 舐めとんのか俺やって悩みぐらいあるわ」

翼
「今度俺の推しのゲームがアニメ化すんのに、
夜中の2時からの放送やからリアタイ大変なんやぞ。やるけど」

誠
「ちっっっっっさ!!」

翼
「なんやとごら」

翼
「……で? そろそろ本題か?」

誠
「……うん。相談したいことが2つあって」

誠
「……付き合い始めてから、情操教育の敗北をよう感じる」

翼
「おう、めっちゃくちゃ今更やな。
おめでとう、真人間への第一歩を踏み出そうと頑張ってえらいで」

誠
「…………」

誠
「傷つける気も、がっかりさせる気もないのにな」

誠
「応えられん。それが……歯がゆいし、怖い」

翼
「ええこと教えたろ」

翼
「マジでお前それ今さらやからな」

誠
「えっ」

翼
「お前はその鈍感さから中学んとき
影で『女たらし』って呼ばれとったからな」

誠
「初耳なんやけど!?」

翼
「クラスの女子は地雷案件って分かっとったけど、
お前のことよう知らん後輩はよう騙されかけたって話あんでな」

誠
「初耳なんやけど!?!?」

翼
「俺はお前のこと許してへんからな」

翼
「俺が1回30分の短いギャルゲーの中に出てくる推しを何十回と
攻略チャレンジして全然両想いエンドならんかったのに、
お前にやらせたら1発で攻略していったん死んでも許さんからな」

誠
「あれはもう一種の事故やろ!!
ちゅうか俺なんも悪ないやろ!!」

翼
「……ほいで、や。
そっちは俺から一個提案したる。お前の情操教育に協力したるわ」

翼
「ちゅうても俺のやり方やからほんまに効果あるかは知らんで?
なんもせんよりかはマシやろうし、お前の趣味が増える一環にも
もしかしたらなるかもしれへんわ」

誠
「翼……!!」

誠
「じゃあまず最初に聞きたいんやけど、
何で『月が綺麗ですね』が『愛してます』になるん?」

翼
「お前まさかやらかしたんかそれを。
そんなテンプレみたいなボケってリアルに存在するんか?
しとるんよなぁこの情緒バブちゃんがよお!!」
と、まあ。
こんな風に今日も翼に色々と話を聞いてもらった。
アヤメとのお月見の後、ちゃんとこんな風に誰かに吐きだせるようになったのは
少なくとも成長している、と彼に褒められた。
さてと、もう一つだ。
>>5191885
「あぁ…きみには仲のいい友人達が居て、本気で君の事を心配してくれる人もいる、そんな君に憧れたんだ…」
彼は、俺を羨ましいと言った。
彼が羨ましかったものは、俺としても誇りに思っているもの。
今まで出会ってきた友人は、俺にとって皆大切な縁だ。
それは関西から去った後も、北摩を去っていった奴も、全員がそうだ。
胸を張って、友人と先生には恵まれていたと言い張れる。
だからこう言ってもらったことは誇りに思えた。
ただ、この日俺が行った仕打ちが仕打ちだったから。
どうも、『羨ましい』と言われてしまえば、身構えてしまうようにはなってしまったけれど。
>>6798616
「あのですね~~~」
おわりだ。流石のアヤメも抱かれながらやんわりキレた。
「おっ、この人知ってるんだな」って思った自分が馬鹿みたいじゃん!
と明確にキレはしなかったが、ムッとはした。
「……"月が綺麗ですね"っていう有名な言葉がありまして、
"あなたを愛してます"って意味を含む言葉なんですよ、それ。
あといい加減私も前に進みたいんでキスしたいんですけど??」
見てください、これがキレてるからこそ出来る惚気です。
多分実際にやるとなったら一悶着あるんだろうけど、
前に進みたいと思っているのは本心。きっと今しか言えないこと。
「……いいです。いいですよ、ホント。
気長に待ちますよ、ホント……むう……」
少し拗ねながらも。
口を噤いで、言葉を途切らせたあなたの様子を感じながら。
「……勝手に喋りますよ、聞きたくなかったら言ってください」
ふう、と色んな感情の籠もったため息を一つ吐いて。
「……生き物の死に対して、
強い感情を抱けることが羨ましいって思ったんです」
そう、言葉を続けた。
>>6799617
「……昨日、ふと狩猟した獲物を料理するって趣旨の動画を見て、
そこに書いてあったコメントを眺める時間があったんですよ。
色んな意見がありました。
有害鳥獣だから誰かがやらなくちゃいけないことだとか、
人の勝手で野生の生き物を殺すなんて酷いことだとか、
本当に色んな人の意見があったんです。
きっと普通なら、そうやって
何かしらの気持ちを抱くと思うんですよ。
……私は、ちっとも、なんの感情も抱けませんでした」
淡々と、呟くように、思い返すように。
抱きかかえられたまま、言葉を紡ぐ。
「普通ならきっと、可哀想だとか、仕方ないとか、
そういう感情を抱くことが出来るんです。
きっと昔の私も、そういった感情を抱くことが出来たんです。
でも今は……どう頑張っても、無理になってしまいました。
……そこで、やっぱり私は普通では居られないんだなって思って。
少し、みんなが羨ましくなったんです。
死に対して、強い感情や衝動を抱ける普通の人が」
「……そんな、大したことのない話です。
湿っぽい話にする気は、無かったんですが」
ごめんなさい、と言葉を終えて。
……少し、静かに月を見上げた。
俺は彼女がどうして羨ましいと言ったかを知っている。
人を斬っても何も思えないのだと教えてもらったことがある。
だから、人を殺すことに強い忌避感を覚える俺が。
いいや、そもそも。人として当たり前の感性を持っているということが。
アヤメは、普通ではなくなったから。
特別に俺のことではなく。
普通の感性を、羨ましいと言ったのだと。
……分かっている。
分かっているから、嘘を付けた。

翼
「…………」

翼
「…………そう、かぁ」

翼
「あぁ、それは酷やったな。
特別お前を指してなくても、羨ましいなんか言われたないわなあ」

翼
「そこの事情を茶化す気はあらへんよ。ガチの傷の部分やん。
……今でも俺は覚えとるもん」

翼
「ボロボロんなったお前の手の中に、ぐちゃぐちゃんなったザリガニがおって。
言うとることと表情がちぐはぐで、壊れてもうたんやと思った」

誠
「…………」

翼
「…………すまんかった。正直、舐めとった」

誠
「いいや。……俺も、あんなんするって思うてなかったもん」

翼
「ちゃうわ、だアホ。
お前は何も悪くない。何も悪ないわ。
お前の両親の悪行の話やわ」

翼
「……あー! 湿っぽうなってもうた!
お前今度11月ちょっとまこっちおるんやろ?
宿どないすんの? 出禁状態やねんな? うち来るか?」

誠
「あ、ええの?
正直何日か寝るとこだけ貸してもらえたらごっつ助かるんやけど」

翼
「ええよええよ、両親にはお前のこと言うとく。泊まりに来ぃ。
目立たんようには来れるんやんな。ガイドいるか?」

誠
「いや、ええよ。バレんように帰んのは慣れとる。
……ごめんな、また迷惑かけてもうて。
ほんまにお前のことは頼らんつもりやったのに」

翼
「何言うとんねん。むしろ頼るべきは俺やろ。
何年お前の世話してったったと思とんねん。しばくぞ」

翼
「その代わり、宿代として泊まる日は俺の趣味に付き合うてもらうからな。
そのつもりでおれよ」

誠
「……ほんまに。
何から何までありがとうな、翼」

誠
「お前が親友で、ほんまに良かった」

翼
「……は~~~~~~~~~~~???
俺はお前が俺の趣味に付き合ってくれっから
こうやって面倒見てやっとるだけなんやけど~~~~~~???
何勘違いしとんのやめんかいな」

誠
「何でそこで茶化すねん」

誠
「ほんま、お前は……変わらんなぁ」
ここでの縁には恵まれている。
ここでも皆、俺に良くしてくれる。
だからこうやって……これまでの友人も、声をかけられるようになったのだと思う。
クロが居ればいいと思っていた。
だけど、今は表に居たいから。相棒以外も頼っていこうと思うんだ。



