RECORD
Eno.346 海狛 呪理の記録
ヒトは、他人は
一体どうやって自分を自分だと認識するんだろう。
アタシはそれがわからない。今も正解を知らない。
あるヒトは 顔 って言った。
あるヒトは 声 って言った。
あるヒトは 過去 って言った。
顔は当てはまらなかった。だってこれは、ヒトだった頃のわたしの顔。今のわたしじゃない。
声もダメだった。この喉は、この唄声はわたしのじゃない。
過去だってそう。わたしの頭の領域にあるのはヒトだった頃の記憶と、人魚たちの記憶だけ。
どれも今の自分を証明する材料になり得なかった。
逆に…なり得ないことを証明してしまって ただただ苦しかった。
自分は普通じゃない。だけど異常だって断言できるだけの要素もない。
空っぽ。それがわたし。
だから、隠すことにした。
外枠だけでも繕って、バレないようにした。
一人称を『アタシ』に替えた。 『わたし』だと記憶に引っ張られて仕方がないから。
よく笑うように努めた。 幸福そうに見えるだろうから。
食事の好き嫌いも作った。 そういうものを個性っていうらしいから。
髪も伸ばした。 この顔を、内側の空っぽを隠してくれる気がしたから。
でもそれでは足りなかった。
どれだけ努力しても結局、体裁を保っているだけ。
自分自身で己を海狛 呪理だと認知する手段にはなりえない。
他人が何を認めてくれても、自分でそれを認められなきゃ意味なんてなかったんだ。
だから…なんとかしようとして
自分を認められない自分を補ってくれる代用品を探した。
アタシが選んだのは…黒いリボンだった。
それは髪が揺れるたびに視界に映る。
それは肌に触れるたびに存在を教えてくれる。
それは鏡を見れば、真っ先に目に入る。
それはたしかに、他でもない今を証明してくれた。完璧だった。
夢との境界がわからなくなったときも、その黒が現実へと引っ張り上げてくれた。
このリボンこそが今のアタシを繋ぎ止める楔だ。
歪なのはわかっている。おかしいのもわかっている。
だけど縋るしかないから、そうするだけ。
いつかはちゃんと、自分で自分を認められるといいな。
最近になって、楔が一つ増えた。
今のアタシを視て、証明して、刻んで、覚えていてくれるって。
ああ、嬉しい。ほんとうに嬉しい。心から嬉しい。
貴女越しに自分を証明できる日が来ることを……痛く願う。 しあわせにしてね、よすが。
自分
ヒトは、他人は
一体どうやって自分を自分だと認識するんだろう。
アタシはそれがわからない。今も正解を知らない。
あるヒトは 顔 って言った。
あるヒトは 声 って言った。
あるヒトは 過去 って言った。
顔は当てはまらなかった。だってこれは、ヒトだった頃のわたしの顔。今のわたしじゃない。
声もダメだった。この喉は、この唄声はわたしのじゃない。
過去だってそう。わたしの頭の領域にあるのはヒトだった頃の記憶と、人魚たちの記憶だけ。
どれも今の自分を証明する材料になり得なかった。
逆に…なり得ないことを証明してしまって ただただ苦しかった。
自分は普通じゃない。だけど異常だって断言できるだけの要素もない。
空っぽ。それがわたし。
だから、隠すことにした。
外枠だけでも繕って、バレないようにした。
一人称を『アタシ』に替えた。 『わたし』だと記憶に引っ張られて仕方がないから。
よく笑うように努めた。 幸福そうに見えるだろうから。
食事の好き嫌いも作った。 そういうものを個性っていうらしいから。
髪も伸ばした。 この顔を、内側の空っぽを隠してくれる気がしたから。
でもそれでは足りなかった。
どれだけ努力しても結局、体裁を保っているだけ。
自分自身で己を海狛 呪理だと認知する手段にはなりえない。
他人が何を認めてくれても、自分でそれを認められなきゃ意味なんてなかったんだ。
だから…なんとかしようとして
自分を認められない自分を補ってくれる代用品を探した。
アタシが選んだのは…黒いリボンだった。
それは髪が揺れるたびに視界に映る。
それは肌に触れるたびに存在を教えてくれる。
それは鏡を見れば、真っ先に目に入る。
それはたしかに、他でもない今を証明してくれた。完璧だった。
夢との境界がわからなくなったときも、その黒が現実へと引っ張り上げてくれた。
このリボンこそが今のアタシを繋ぎ止める楔だ。
歪なのはわかっている。おかしいのもわかっている。
だけど縋るしかないから、そうするだけ。
いつかはちゃんと、自分で自分を認められるといいな。
最近になって、楔が一つ増えた。
今のアタシを視て、証明して、刻んで、覚えていてくれるって。
ああ、嬉しい。ほんとうに嬉しい。心から嬉しい。
貴女越しに自分を証明できる日が来ることを……痛く願う。 しあわせにしてね、よすが。