RECORD

Eno.14 卯日 蜜奈の記録

*転、操、標

 


* これは      視点の記録です。









「昔、ある所に」





「 は元々」
「運悪く意思を持って生まれた道具でした」


「たいして珍しくもない話」
「神秘を用いて、世界を少しだけ便利にしようとする流れのなか」
「たっぷり神秘の蜜を塗って造られた、
 少しだけ出来のいい怪奇、それが でした」



『怪奇』
神秘を中核としたもののうち自律的に動く存在のこと。

生物と同様に代謝を行う個体や、人間に近しい知能を持つ個体も存在する。


「人と変わりない頭の中身を持った の」
「考えることはずっとひとつでした」


(いつまでこの孤独に耐えればいいの?)


「それだけ」







「低級の怪奇が増え、いなくなり」
「名も知らぬヒトが増え、いなくなり」


「いつしか本当に独りになってから、更にしばらく経って」
「覚束ない一本足で這い出た世界の、なんと広いこと」



「 のちっぽけさの、なんと寂しいこと」






「己の顔を」


「長いこと見なかったものですから」
「人様に合わせる顔すら持ち合わせてなくて」


「言葉を伝える口も、そこにはなくて」


「裏世界とやらの勢力の庇護下に入ることもできず」
「ただ、退治されないように逃げ隠れして」
「未だ続く長い孤独を、過ごしていました」


「更に、呆れるほどの時間の経ったある日」
「珍しく、ちょっと騒がしいなと思って」

「ショーウィンドウの内側から、外を覗いたら」












「そこに貴方を見てしまった」



「その願いと畏れに、触れてしまった」





もう一人のあたし──などではない。
もっと根本的なもの。

『自分の代わりがいたら』

たったそれだけの。


「本当なら」
「そこに入っていた」






「でも。その近くには──あの、鵺と」
「それに対するまた別の願いと畏れを抱く者がいました」





『そいつに等しいものがあったら』

それもまた、実に単純な。


「この神秘は、少女に強く働きかけるもの」
「この神秘は、正体の分からぬ故のもの」



だから、その怪異は男性体であったとか、
二つの少女の姿になるとか、
細かいところを上手い具合に繋ぎ止めて。


「……か細い確率の果て」


「私は、彼女らの代わりを務めるようになりました」


「最初は、全て我が物にするつもりでいました」
「羨ましかったから」
「いらないのならくれ、と」
「ほしくてもくれてやらない、と」


「けれど」





「けれど私は、
 ヒトとしての暮らしを知ってしまいました」


「食事の、家族の、色恋の、喜怒哀楽の、
 温度を知ってしまいました」


「あんなにも焦がれた熱に、
 私は大層怖気付いてしまいました」





「こんなものを独り占めするのは、
 とても耐えられませんでした」







「誰か、あたしを助けて」
「何かを借りることでしか生きられないあたしを」



「未だ抜け出せない孤独から、どうか連れ出して」










「……なんてね」


「ねえ、こんな一節を聞いたことはある?」

Mirror mirror,who is the fairest of them all 鏡よ鏡、この世で一番綺麗なものは ?」


「あたしは、応えました」

I'm fairest of them all それは鏡そのもの




「それは」
「王妃様にも、白雪姫にもなれる、
 魔法どころじゃない、神秘の鏡」


「もう誰に取り憑く必要もなくなる」
「寄せ集めで形を作る意味もなくなる」


「唯一にはなれない、同率の輝きを捧げましょう」