RECORD

Eno.579 真里谷 関の記録

memo.209


 小さい頃、酒がはいった父さんはこの場にいないもの・・・・・・・・・に向かってよく声をかけていた。家族はみんなそれを、またやってる、くらいの気持ちでみていたと思う。べつに性格が変わったり暴れたりするわけではなく、平和といえば平和な酔いかただったんだ。
 回らない頭で、そういうことを思い出していた。見慣れた部屋、小さな狐っぽい置物がやけに歪んでみえる。さらに宙を大きな水滴みたいなものや、翼だけのなにかが舞っている。裏世界では珍しいものでもないけど、ここは表、のはず、だ。つまり、いつからか飲まなくなった、父さんとおなじものを見てるってことなのか。ただの幻覚。でも、そう、こういうものが実在することを俺は知ってる。あのお茶の間にも、無害な怪奇がいたってふしぎじゃない。またへんなものが見えてる、なんて俺が言えたことじゃなかったな。酔うと見えるようになる、なんてことだってあるかもしれない。もともと見える俺は、さらに研ぎすまされて。
 まあ、どちらでも大したちがいはない。今はっきりしているのは、おれは人前でのんじゃいけない人間だってことだ。そこまでおいしく感じもしないものでこのリターンじゃ、わりに合わないったらないなぁ。