RECORD
夏休みの日記
私は海に行ったことが無かったから、人工の海だとしても新鮮ですごく楽しかった。
砂浜はさらさらしていて、寄せる波は白くて、海水は透き通っていて冷たかった。
この日のために水着も買ったけど、最初はあんまり目を合わせてくれなくて。
私も、司くんの水着姿をよく見ることができなかった。
小さい頃は一緒にプールへ行って、水掛け合ったりしたのにな。
……
…………
>>6408182
「そっかそっか。
じゃあここで遊ぶ分には問題ないね」
そもそも苦手だったらビート板なり浮き輪なりを
レンタルしていただろうし。
確認を貰えば満足そうにうなずいて
「えいっ」
ぱしゃ、と手で軽く水をあなたにかけた。
なんとか停滞した状況から緊張をほぐそうと。
>>6408255
「うおっ……!」
不意に降りかかる水に面食らう。
まだ冷たさに慣れていない頭に浴びたものだから、
その反応も上々。思わず声も出てしまった。
「この……いきなり仕掛けてくるじゃん。お返しっ」
あなた相手にやられっぱなしは癪なのか。
間髪入れずに男もあなたへ水を浴びせかけるだろう。
ばしゃっと勢いよく、そして大人気なく。
>>6414786
「きゃあっ!」
倍返しを受けて思わず目を閉じる。
ぷるぷると頭を振って水滴を取りながら
「ふふっ、油断大敵だよぉ。
えいっ!」
もう一度波をあなたに向ける。
今度は先程よりももっと遠慮なく。
>>6414814
あなたの反応が良いもので、思わず笑顔になってしまう。
やはりこういう時に、素直なあなたの性分はありがたい。
「うぁっ……へへ、このやろ、懲りない奴!」
そうしてその返礼に浴びる水がまた心地よい。
お陰で男の手は再び反撃に伸びるだろう。
今度は両の手を重ねて、一つの大きな握りこぶしを作り。
「跳ねっ返りには、こうだぞ!」
水面に角度を付けて、拳を振り下ろす。
叩かれた水面から、激しい飛沫があなたに降りかかるだろう。
全力ではないが、それでもちょっと大人げない。
しかしその分、雰囲気はいつものとおりに戻りつつあって。
うん、やっぱり楽しかった。
あのころと変わらず水をかけあってはしゃいでるのは楽しくて、安心した。
司くんが楽しそうに笑ってると、私もつられて楽しくなっちゃって。
もしかしたら、司くんもそうなのかもしれないけど。
>>6437215
「知らないこと……」
1番に思い浮かぶのはやはり裏世界のこと。
こちらが一方的に隠していて、まだ打ち明ける機会を
得られていないこと。
その気まずさを表に出さないように1度思考の隅に
追いやって
「……たとえば、何があるんだろ?
私が知らないだろうこととか、司くんが
最近まで知らなかったこととか」
>>6437324
「例えば……───」
例を上げようとする、その口が閉じてしまう。
先ほどの独白の中で、男が思い浮かべたことは確かにある。
けれどもそれをあなたにそのまま口にするのは、
男側の心構えがどうにも足りていないもので。
「んん……いや、ごめん。やっぱ忘れて。
これだけ一緒に居て知らないことっていうのは、
知らないだけの理由があるもんだと思うし。
……俺も正直。紗耶に言えないこととか、あるし」
なんて、逃げ口上で収めてしまうのだった。
どうにもこのリゾートに来てから逃げの姿勢が目立つな。
>>6459963
「ちょっと前にクラスの友達4人で……
かわいかった……」
なんか生暖かい視線を向けられている気がする。
猫の大きさを示すように腕をわたわた動かして。
「う……だ、だって司くん大体私のこと知ってそうじゃん……
だから先に何を知らなかったかって聞いたの!
私も言ったんだから司くんだって言ってよぉ!」
いたたまれなくなったのか、あなたの腕を軽く掴んで
ゆさゆさ揺らす。海水がやや波打った。
>>6460073
「アッ、お前、近ッ」
咄嗟に腕を捕まれ、体がビクッとなった。
普段ならこれぐらいの接触で狼狽えるようなこともないのだが、
今は如何せんお互いに海の装いである。
これを振り払うためにはやはり、
義理立てとして自分も何か思考から削り出すべきなのだが。
こうして近くあればあるほど、男の思考が雑念に支配される。
"それ"しか考えられなくなって考えが行き詰まる。
「~~~~~、~~~~~なん、でも良いか?
本当に良いか!?」
そしてこの板挟みに、段々と男が耐えられなくなっている。
行き場を見つけられず彷徨っている気持ちが、
噴出点を探すように。
>>6461035
「わかっ、わかったっ……じゃあ、言う、言うから!!」
なんだかヤケクソ気味になっているような気がする。
実際、そう捉えられても間違いではないだろう。
それぐらいに、抱えているモヤモヤは耐え難く。
「もしかしたら、だけど!!
実は俺が今まで思ってたより紗耶って可愛いのかなって!!」
そんなことを勢いに任せて口走ったのだった。
……これはちょっと恥ずかしかったかも。
そりゃあ、小さい頃からずっと一緒だし、かわいいだなんて言われたことないし。
昔ならからかって笑い飛ばせたのかな。
冗談だって流せたのかな。
>>6814618
「…………あ~…………」
不覚にも、この男も寸前まで気づかなかったらしい。
呈された疑問に対して、男は頬を掻くような素振りを見せて。
やがて自分のスプーンでカレーを掬い。
「…………じゃあ、一口」
それをあなたに差し出そうとするだろう。
なかなか恥ずかしいことであったが、
しかしこれまでの経験から多少は慣れもある。
ゴネるとなんとなく機嫌を損ねることも覚えている。
ならば、先に差し出してしまおうという魂胆。
店員に頼む、という。その選択が咄嗟に思いつけば良かったのだが。
>>6814876
「あっ……う、うん……ありがと……」
差し出されたスプーンを見てしばし目を泳がせる。
頬を赤く染めたまま、口を開けてカレーを口に含んだ。
「……おい、しい。スパイシーだけど、まろやかで……
あんまり食べたことない感じ、かも」
味の研究をしようと思ったのに、他のことに気持ちが傾いて
あんまり味が分からなかった。
それでもなんとか咀嚼して飲み込む。
カレーのスパイスとココナッツだけではないの甘さが
口の中に残っている気がして。
前まで普通にできていたことが、今はできなくなっている。
変わらないと思っていたものが、どんどん変わっていく。
ずっと変わらずに過ごしていけるものだって信じていたのに。
でもね。
本当は少し前から気付いていたの。
何が変わったのか、どうしたいのか、どうなりたいのか。
本当はずっと前から知っていたの。
私にとって司くんがなんなのか。
でも、ずっと見ないふりをしてきたの。
だって、私は年下だから。
だって、私は幼馴染だから。
司くんにとって私は妹みたいなもので、ペットみたいなもので。
かわいがって面倒を見てくれるけど、女の子としては見てくれないだろうって。
大学生の女の人たちはみんな綺麗で、お洒落で、大人っぽくて。
高校生の私にはずっと遠い存在に見える。
──だからね、水着姿に気まずそうにしてたのも、カレーを食べさせてくれる時に恥ずかしがってたのも、
本当は少し嬉しかったんだ。
司くんは優しいから、私が気持ちを伝えたら、笑って困った顔をしてくれるだろう。
優しいから、変に遠ざけたりはしないだろう。
でも、絶対に"何か"は変わる。
今のまま、楽しい関係でいられるはずがない。
私の方が、その気まずさに耐えられないかもしれない。
それが怖い。
ずっと一緒にいたい。彼のことを一番知っているのは私がいい。
大人になっても、おばあちゃんになっても他愛ない話をしたい。
──私にだけ優しくしてくれたらいいのに。
いつまで見て見ぬふりできるだろう。
いつまで気づかれずに過ごせるだろう。
嘘つきで、隠し事ばっかりで、汚れた私をいつまで隠すことができるだろう。
ばふり、とベッドに沈んで今日撮った写真を見返す。
どれも楽しそうで、眩しいなあ。
せっかくなら、ツーショットも撮っておけばよかった。









