>>6542160
「私もなんの怪奇かは分からなかったけどね」
猫の怪奇が別の怪奇のお膝元だったっていう解釈で概ね良いということをお伝えしました。
「わからないけど、あの子はお月様を名乗っていたね」
「そこに一人で行くって言った時にね、」
↯とりちゃんからこのような警告を受けたとのこと↯
”神社を持ってる神を自称するような怪奇は、
その辺の野良怪奇とは違う。
永遠にループする小径を抜ける術はあるかい。
決して出られない森を抜ける術はあるかい。
空間を支配する存在から本当に逃げられるかい。”
「私がそこに行ってギリギリ見たのは子猫を抱えた”少女”だったから。
多分、怪奇の人と私では見え方が違うんだろうなって思ったんだ」
だから最近怪奇について勉強しているようです。
「よく目を凝らしてやっと見えるくらいの子だったから、
私も勉強不足or信心不足だったなって思ったよ」
RECORD
Eno.896 百堂 巡の記録
︙
神社を持ってる神を自称するような怪奇。
お月様を名乗る少女。
いっぱい出てきた手。
いつか聞いた知らない怪奇のことは、ずっと頭には残っていた。
神社にいる、西にいるお月様。
季節外れの最中に聞いたその声に、見つけた、と思った。
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大木の上から笑う声。
見上げた先にいたのは、確かに少女の姿をした怪奇だった。
見る影も無く崩れ落ちた境内。
建物に刻まれた経年劣化とは毛色の違う傷。
足を運んだその先で、それらをひとつも気にしてはいなさそうな顔をして、"お月様"はそこに坐していた。
名前を伏せたまま挙げるこどもの影。
お酒ね、と心当たりのありそうな調子に、ああやっぱりここかともうひとつ深まる確信。
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のんびりと笑う声に返せる言葉は浮かばなかった。
願いの行く末を案じることを、仲がいい、と言える気がしなかった。
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聞く限り、祀られた怪奇は珍しいくらいに温厚だった。
コロニストの焚き火の周りを闊歩する怪奇たちと同じかそれ以上に人付き合いに引っかかることの無さそうな、そんなような気配がした。
少なくとも、悪意から人を害するものではない。
少なくとも、無理解から人を害するものではない。
善意からは、分からないが。
そこは人のことを言えたものではないから。
これならいいのかな、と思った。
それなら帰ろうか、と思った。
顔を知らない方のこどもが言っていた通りに、そう恐ろしいものではないのなら。無闇に言葉を連ねて怒らせるようなこともしたくなかったので。
したくなかった、んだけど。
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分かったようなことを言うから。
分かっていることを、言うから。
つい、足が止まった。
それができるならとっくにやっている、なんて、言葉が出るわけでもないのに。
改めて優しい神だと思った。
願われた通りにしかできない自分より、ずっと。
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揶揄うような少女の声。
それを聞いた時に、だから少しだけ安心した。
お月様に会いに行った、理由。
振る舞いばかりは自由な人の子からの願い未満の予約がひとつ。
望むなら表への道を塞いだって良いんですよ、と言ったことがある。
それに、覚えておくと返されたことがある。言う時には冗談じゃない、とも。
逃げ出したい、と言われた気がした。
帰りたくない、と言われた気がした。
消えてしまいたい、と言われる気がしている。
そのこどもが、少し明るくなって、その口からお月様の名前が転がり落ちたから。
もう願われることはないんだと、安心したかった。
願われたら、応えなくてはならない。
願われたら、叶えるために尽くさなくてはならない。
願ったのならいいじゃないかと、怪奇の部分が囁いて。
それは本当にこどものためかと、人真似の枷が指をさす。
言えない。
言えるわけがない。
言える作りをしていない。
願われることが、こんなにも恐ろしい。
d21.枷
こどもが言った。
お月様を名乗る少女。
いっぱい出てきた手。
いつか聞いた知らない怪奇のことは、ずっと頭には残っていた。
また別のこどもが言った。
季節外れの最中に聞いたその声に、見つけた、と思った。
「あら」
「見つかっちゃった」
大木の上から笑う声。
見上げた先にいたのは、確かに少女の姿をした怪奇だった。
見る影も無く崩れ落ちた境内。
建物に刻まれた経年劣化とは毛色の違う傷。
足を運んだその先で、それらをひとつも気にしてはいなさそうな顔をして、"お月様"はそこに坐していた。
名前を伏せたまま挙げるこどもの影。
お酒ね、と心当たりのありそうな調子に、ああやっぱりここかともうひとつ深まる確信。
「仲良しなのね」「あの子と」
のんびりと笑う声に返せる言葉は浮かばなかった。
願いの行く末を案じることを、仲がいい、と言える気がしなかった。
「願われる」「ものは」
「聞いて」「あげたいとは」「思うかしら」
「今は」「食べ物も」「娯楽も」「増えて」
「悩み事も」「増えているでしょう」
聞く限り、祀られた怪奇は珍しいくらいに温厚だった。
コロニストの焚き火の周りを闊歩する怪奇たちと同じかそれ以上に人付き合いに引っかかることの無さそうな、そんなような気配がした。
少なくとも、悪意から人を害するものではない。
少なくとも、無理解から人を害するものではない。
善意からは、分からないが。
そこは人のことを言えたものではないから。
これならいいのかな、と思った。
それなら帰ろうか、と思った。
顔を知らない方のこどもが言っていた通りに、そう恐ろしいものではないのなら。無闇に言葉を連ねて怒らせるようなこともしたくなかったので。
したくなかった、んだけど。
「キミは」
「手を」「引いて」「あげないの」
「引き摺り出して」
「あげたら」「いいのに」
「取り戻せなく」「なってからは」
「何も」「届かないもの」
分かったようなことを言うから。
分かっていることを、言うから。
つい、足が止まった。
それができるならとっくにやっている、なんて、言葉が出るわけでもないのに。
改めて優しい神だと思った。
願われた通りにしかできない自分より、ずっと。
「キミが」「手を伸ばさないなら」
「私は」「終わりも」「全て」
「手を伸ばしては」「しまうかも」「ね」
揶揄うような少女の声。
それを聞いた時に、だから少しだけ安心した。
お月様に会いに行った、理由。
振る舞いばかりは自由な人の子からの願い未満の予約がひとつ。
望むなら表への道を塞いだって良いんですよ、と言ったことがある。
それに、覚えておくと返されたことがある。言う時には冗談じゃない、とも。
逃げ出したい、と言われた気がした。
帰りたくない、と言われた気がした。
消えてしまいたい、と言われる気がしている。
そのこどもが、少し明るくなって、その口からお月様の名前が転がり落ちたから。
もう願われることはないんだと、安心したかった。
願われたら、応えなくてはならない。
願われたら、叶えるために尽くさなくてはならない。
願ったのならいいじゃないかと、怪奇の部分が囁いて。
それは本当にこどものためかと、人真似の枷が指をさす。
言えない。
言えるわけがない。
言える作りをしていない。
願われることが、こんなにも恐ろしい。

