RECORD

Eno.14 卯日 蜜奈の記録

鏡よ鏡、あなたはこの世で一番

母は、あたしが神秘に触れて間もない頃、
心を少し病んで自宅で静かに過ごすようになったという。

父は、そんな母を甲斐甲斐しく支え、
そしてあたしに苦労させないために、遅くまで仕事部屋に篭り切りなのだという。


その負い目があるからか、きちんと連絡さえすれば、
二人があたしの行動に対してとやかく言うことはない。

適当に放っておかれてるわけじゃなく、
空も白む前から散歩しに出掛けたり、
深夜に思い立ってはお祈りをしにいったり、
空も白む前から星を見るのに付き合ったり、が重なったときは、
流石に心配そうに声を掛けられはした。あたしも流石にちょっと申し訳なかった。

だから、常識的な範囲の中では、
至って自分のやりたいようにさせてもらっていると思う。

ちょっと言えない趣味を持っていても暖かく見守られて。
志したい夢が見つかって、それを伝えたときには凄く喜んでくれた。

特にお母さんが、まるで自分のことのように喜んでくれた。


───自分のことのように・・・・・・・・・、喜んでくれたのだ。



テレビでぼうっと今週分のオカルトリップスを見ながら、
エレベーターで出くわした、赤毛の女のことについて考えていた。


停電時にエレベーターを操作できたのは、電気系統が分けられていたから。
夜でもないのに暗闇だったのは、遮光カーテンが使われていたから。

ひとつひとつ解釈して普遍化していって、
それでも上手く腹落ちできなかったのが、暗闇に紛れていったあの女についてだ。


あんまり深く考える必要はなく、停電の対応しにいった職員に違いないとは思うし。
そうでなくとも、番組側が真に迫ったリアクションを引き出すため仕込んだスタッフ、のような気もする。

それでもあたしは、ある畏れを拭うことができないままにいた。


───可愛く映ってるじゃない、と嬉しそうな声がする。
そちらに顔を向けたら、機嫌の良さそうなお母さんの姿が目に移った。

飲み物を二人分淹れて、片方をこちらの前に置いて行ってくれる。
その顔には、ヴェール。美しいはずの微笑みを覆い隠した、ひとつの心の壁。





今でもあのヴェールの下には……
あたしよりずっと美しい顔が、あたしを見つめている

そんな夢が、そんな想像が、焼き付いて離れない。


「ねえ、お母さん」

何です、と聞き返すあなたは昔と何も変わらない、厳しくも愛情深いまま。
きっと今でも、その気になってしまえば、
あたしのちょっとした頑張りを掻き消すほどの輝きを放つのだろう。

あたしは鏡だ。

自分が外見を磨き、神秘や芸能で力をつけるほど、母の偉大さ美しさが際立つ。
いつかヴェールの下で老いるとしても、あたしが枯れるまでは、毒のように残り続ける。


エレベーターに乗り込んできたあの女の人は、
それに対して感じる気持ちもまた、あたしを映す鏡で。

あたしの中にある"畏れ"そのものなのかもしれない、なんて。


「……応援しててね」

柔らかい笑みを作りながら、はにかみながら言うと、
お母さんは勿論よ、と答えながら頭を撫でてくれた。



『オカトリも毎週見てて…あいや、
 色々あって今週分はまだ見れてないんスけどっ 絶対見るんで…!』

『え、マジすか!ぜってー見ます!
 楽しみだなぁーっ…!』



「……」

ファンだといってくれた子のことを思い出して。
もう一歩先を進もうという、小さな勇気が湧いてくる。


あたしが、誰かに何かを与えられているのなら、
この夢が、ただ美しさを映す鏡だとしても───