RECORD

Eno.427 大狼拾希の記録

0/8:ライアーヘッド

嘘つきの頭ライアーヘッド

あながち間違いではないいい名前だと思った。
皮肉の効いたいい名前。

どうやら暫くの間、リセットが発生していなかったようだと、
記憶…いいや、記録で知った。
管理局への報告履歴、そして自身が残していたメモの走り書き、
そしてアザミの言葉。

今はもう意識せずとも、不定期的にだがリセットは遅くても
2~3日に1回は発生するようになっている。
…しかし、一つだけ大きな…非常に大きな問題が発生していた。


「おう大狼、こないだ言ってた新作の話だけどさ」



知らない誰かが話しかけてくる。
非常にまずい。クラスメイトだということはわかる。
しかし顔と名前が一致しない。勿論こないだ言ってたらしい新作とやらのこともわからない。
だが、何とか話を合わせる。
どうだった?と返し、それに対する返答で何に関することかを推理する。
冷や汗が流れる。
何度かやり取りを繰り返し、その新作がオーディオ機器であることがわかった。
あとは片手間にそれの内容を調べつつ、話を合わせるだけ。
相手の名前を今は思い出せなくてもいい。
最低限に会話を済ませてそのクラスメイトを見送る。

視線を感じた。些細な違和感にも気付くその女生徒のことは覚えている。
彼女も含め、何人かのフルネームや印象は覚えているが………
半数以上の名前を思い出せない。

リセット……それは自身の状態を正常に戻す制御ができない異能。
しかし、本当に時折発生する厄介過ぎる特色が今発動したのだと、内心焦っていた。
記憶の一部がリセットされている。

・・・・・・。

昼休みに重箱で弁当を食べる。
1人分にしては多すぎる数日分とでも言える量。
記憶の断片、そしてメモに書かれた内容。
それらを元に料理を作る。完全な再現にはならない。
料理は相変わらずちょっと高価なインスタント食品のような味になる。
メモにあるそれらを実際に食べた時に感じるような感動は決して無いのだろうが、
それでも、その味は僅かに記憶と紐づけられているように感じた。
食べていくことで徐々に記憶が呼び覚まされていく。
……否、それは記録。そういった出来事があったのだという記録を読み込むように、
少しずつ思い出していく。

別の日には学食の惣菜パンを。おにぎりを。
サンドイッチを。学食のメニューを。
半年以上毎日食べてきたものを食べていく。

教室で食べたものは教室で食べることで、
より鮮明に記録を読み返すことが出来る気がした。
クラスメイトたちに多少不審に思われることもあるが、
それでもいつかボロが出るよりはマシだと判断した。

・・・・・・。

嘘つきの頭ライアーヘッド
それが完成していたのはそれなりに前のようだった。
被ってみると窮屈だが、不思議と奇妙な安心感すら感じる。

ふと、誰かが問いかけてくるような気がした。

「とまれ、お前は誰だ」



俺は………いや、私は…誰だ?



答えは出ず、問いかけもそれ以上やってこない。
けれど、それでも生きていくしかないじゃないか。

普通に過ごす。

普通を尊び、普通であろうとし、
その先に何かを見つけられたのなら……それはきっと―――

大狼拾希あざむきひろきにとって、とても大事なものになるのだから。