RECORD
Eno.361 ジャンヌ土岐マリアムの記録
ヒーローになりたくて
私にとっての一番古い思い出は、母様の満面の笑みだ。
母様はいつも笑顔で、私を心から愛してくれていた。
その時すでに小学校高学年になっていた兄様が嫉妬するくらいに。
母様はずっと病院で暮らしていて、家ではあまり会えないけれど。
たまに病院から帰ってきた時は美味しい料理をたくさん作ってくれる。
私はその料理がどれもこれも大好きだった。
──だが、その料理のどれもこれも、私のお腹を満たしても、私の中に
ぽっかり空いたものを埋めてくれそうなものはなかった。
私がもうすぐ6歳を迎えようかという夏の日。その理由が判った。
激烈な猛暑。燦燦と降り注ぎ続ける日光。
幼稚園の友達は簡易プールにたまった水で水遊びをするが、
お風呂ですら何かしら怖かった私はそうやって涼を取ることも難しかった。
プールから離れ、日光にやられ続け、フラフラし始める私。
幼稚園の先生が、私と、水遊びに疲れた子を一緒に屋根の下で休ませる。
その時、それは起こった。
日光で削られた魂が飢えを訴えた。お昼ご飯直後のことなのに。
隣を見れば、ご飯と運動をしておやすみモードに入りかけた無垢な女の子。
その子の首筋が、うなじが。どうしようもないほどに魅力的に見えた。
心臓が高鳴り続けた。身体が勝手に動き始めた。
そして──私は、友達の首にかぶりつき。
泣き叫ぶその子の身体から漂う鉄の味と香りを楽しんだ。
担任の先生と園長先生、二人がかりで引きはがされるまで。
夕方ごろ、急いで幼稚園に走ってきた父様が必死に先生と友達の母親に謝っているのを見た。
その隣には病院からやってきた母様がいた。
私は、訳も判らず友達を襲ってしまった嫌悪感と恐怖に怯えて泣いていた。
なんとか「子供同士のけんか」ということで決着はついた。
翌日の土曜日。私は、両親と兄様に連れられて町の一角に来る。
父様が「もう少し後でいいかもと思っていたが、今話さねばならない」と言い
何もない路地裏の中に進んでいく。
すると──さっきまで晴天だった青空がいきなり夕焼けへと変化する。
そこで聞かされた。
私の中にある「存在」について。
──母様は、兄様と私との間で二人の子供を流している。どちらも無事生まれれば女の子だった。
だから私の性別が判った時、また流れてしまうのではと気が気でなかったそうだ。
だから迷信にも縋りつき。いろんなパワースポット巡りなどをしていたらしい。
父様や兄様も協力していた。
だが、そんなとある日。両親と兄様全員が裏世界へと足を踏み入れてしまう。
そこにいたのは『ドラキュラ』の怪奇。
世界各地で畏れられるドラキュラ伯爵への感情の澱が集まって生まれた存在だ。
そのドラキュラが、母様にかぶりついた。
その直後に管理局の人達がやってきて、母様はギリギリ命を繋ぎきった。
だが、その際に『ドラキュラ』の神秘が出生前の私に襲い掛かる。
私もまた流れてしまうのではないか。
そう考えた母は私が産まれるまで、ずっとずっと祈りを捧げ続けて来たそうだ。
重ねた祈りが天に通じ、私が無事に生まれるまで。
父様から言われた。
「お前は、吸血衝動とずっと戦い続けなくてなならない」と。
そして──母様や兄様と一緒に、私を抱きしめてくれた。
その温かな抱擁の中で。私は決意したのだった。
「母様を助けてくれた、管理局の人のようになる」
と。
かくして、ヒーローに憧れる一人の少女がうまれたのだった。
母様はいつも笑顔で、私を心から愛してくれていた。
その時すでに小学校高学年になっていた兄様が嫉妬するくらいに。
母様はずっと病院で暮らしていて、家ではあまり会えないけれど。
たまに病院から帰ってきた時は美味しい料理をたくさん作ってくれる。
私はその料理がどれもこれも大好きだった。
──だが、その料理のどれもこれも、私のお腹を満たしても、私の中に
ぽっかり空いたものを埋めてくれそうなものはなかった。
私がもうすぐ6歳を迎えようかという夏の日。その理由が判った。
激烈な猛暑。燦燦と降り注ぎ続ける日光。
幼稚園の友達は簡易プールにたまった水で水遊びをするが、
お風呂ですら何かしら怖かった私はそうやって涼を取ることも難しかった。
プールから離れ、日光にやられ続け、フラフラし始める私。
幼稚園の先生が、私と、水遊びに疲れた子を一緒に屋根の下で休ませる。
その時、それは起こった。
日光で削られた魂が飢えを訴えた。お昼ご飯直後のことなのに。
隣を見れば、ご飯と運動をしておやすみモードに入りかけた無垢な女の子。
その子の首筋が、うなじが。どうしようもないほどに魅力的に見えた。
心臓が高鳴り続けた。身体が勝手に動き始めた。
そして──私は、友達の首にかぶりつき。
泣き叫ぶその子の身体から漂う鉄の味と香りを楽しんだ。
担任の先生と園長先生、二人がかりで引きはがされるまで。
夕方ごろ、急いで幼稚園に走ってきた父様が必死に先生と友達の母親に謝っているのを見た。
その隣には病院からやってきた母様がいた。
私は、訳も判らず友達を襲ってしまった嫌悪感と恐怖に怯えて泣いていた。
なんとか「子供同士のけんか」ということで決着はついた。
翌日の土曜日。私は、両親と兄様に連れられて町の一角に来る。
父様が「もう少し後でいいかもと思っていたが、今話さねばならない」と言い
何もない路地裏の中に進んでいく。
すると──さっきまで晴天だった青空がいきなり夕焼けへと変化する。
そこで聞かされた。
私の中にある「存在」について。
──母様は、兄様と私との間で二人の子供を流している。どちらも無事生まれれば女の子だった。
だから私の性別が判った時、また流れてしまうのではと気が気でなかったそうだ。
だから迷信にも縋りつき。いろんなパワースポット巡りなどをしていたらしい。
父様や兄様も協力していた。
だが、そんなとある日。両親と兄様全員が裏世界へと足を踏み入れてしまう。
そこにいたのは『ドラキュラ』の怪奇。
世界各地で畏れられるドラキュラ伯爵への感情の澱が集まって生まれた存在だ。
そのドラキュラが、母様にかぶりついた。
その直後に管理局の人達がやってきて、母様はギリギリ命を繋ぎきった。
だが、その際に『ドラキュラ』の神秘が出生前の私に襲い掛かる。
私もまた流れてしまうのではないか。
そう考えた母は私が産まれるまで、ずっとずっと祈りを捧げ続けて来たそうだ。
重ねた祈りが天に通じ、私が無事に生まれるまで。
父様から言われた。
「お前は、吸血衝動とずっと戦い続けなくてなならない」と。
そして──母様や兄様と一緒に、私を抱きしめてくれた。
その温かな抱擁の中で。私は決意したのだった。
「母様を助けてくれた、管理局の人のようになる」
と。
かくして、ヒーローに憧れる一人の少女がうまれたのだった。