RECORD

Eno.361 ジャンヌ土岐マリアムの記録

鈴菜との出会い

それは、小二の頃だった。大型台風が去った後、メイドと一緒に買い物に出た先のスーパーで見たテレビ。
そこには土砂崩れにより陸の孤島となった山あい町を上空から撮った映像が映っていた。
物資を運ぶ車すら入れない場所。そこに、自衛隊の人達が道なき山を踏破して物資を届ける任務が遂行される。
任務は無事に終了。メイドから聞いたが、彼らは困難な任務に立ち向かうレンジャー部隊だと知った。

純粋にカッコいいと思った。
窮地にある人々のため、神秘もなしで何十キロもある荷物を担ぎ任務を達成する人達。
私がそんな彼らに憧れの目線を投げている時。一つの声が耳に入った。

「あ、お父さんだ」

私はその声を聞いてすぐに振り向く。その先には、テレビの画面を凝視しているクラスメイトの姿があった。
クラスメイト、とは言ってもこの時点では席も遠かったし顔を知っている程度でしかなかったが。

「あ、あの……日坂さん、だっけ?」
「あれ? 土岐さん? ごきげんよー」

お互い挨拶を交わし、本題へ。

「あのさ、日坂さん。今、お父さんって言ってなかった?」
「うん。私のお父さんね、じえーたいのレンジャーなの。あ、ほら。また映った」

見ると、そこには任務を終えテレビのインタビューに答える、泥まみれの隊長さんの姿があった。

「すごい……日坂さんのお父さん、スッゴクカッコいいよ!!」

私が全力で叫ぶと、鈴菜はパァッと笑顔になる。

「でしょ? 私の自慢のお父さんなんだから!!」

胸を張り、得意げな顔になる鈴菜。
その日に私たちはすぐに友人同士となり、教室でも良く話すようになっていった。

鈴菜は、私とは正反対のお姫様のような子だった。
母親からはお菓子作りや料理を教わり、拙いながらも肉じゃがなども作れた。
毎週ピアノ教室に通っており、奏でる旋律は花のようだった。
何より、とても優しく慈愛に満ち溢れていた。
教会のミサで泣き叫ぶ赤子をあやさせたら誰よりも上手かった。

対して私はいじめを見つけたりサボっている生徒を見かけたらそれが男子であろうと突っかかっていく。
ケンカやドッヂボールでの傷は当たり前、絆創膏のついてない日は夏休みくらいのものだった。
そんな私を見た鈴菜が「またケガしたの? マリーってば、しょーがないなー」と呆れながら新しい絆創膏を持ってくる。

呆れはしても、拒絶はしない。
私も鈴菜も、「思い浮かべるカッコイイ姿」は共通していたから。
そう、あの日一緒にテレビで見た、鈴菜のお父さんの姿だ。
だから私たちは二人とも、いつも笑顔で過ごせていた。




そうして絆を深めていく中、ある事件が起こった。
鈴菜の通うピアノ教室。その中で鈴菜を教えていた講師の人が教室のお金を横領していたのだ。
教室はすぐさま当該講師を懲戒免職。講師はそのまま警察に捕まった。

親しく師事していた先生の突然の逮捕に鈴菜の心は落ち込んでいく。
そこに、クラスのカースト上位の女子がつっかかった。
ある日、鈴菜を呼び出して校舎裏でイジメていたのだ。
一緒に帰宅しようと鈴菜を探していた私がその現場を見つけた時に聞こえてきた言葉は
「何か言い返したら?」
「アンタもなんかやましいことあるんじゃない?」
「悪い人について回ってたんだもんねー。アンタも分け前とか貰ってたり?」
というようなひどい言葉ばかりだった。
カースト上位の女子とその取り巻きに囲まれた鈴菜は「私はなにもしてない……」とか細く言うばかり。
イジメをしている女子たちに押されたり砂をかけられたりしていた。

私の身体は、気づけば動いていた。
「悪い人についてる人も悪人よ。だから私たちが教育を──」と言いかけていたカースト上位の女子に駆け寄り、
思いっきりぶん殴っていた。一切遠慮のないグーパンで。


「な、なによアンタ! 後ろからいきなり殴るなんてひどいじゃない!」
「ひどいのはどっちだ! 抵抗もしない相手をいたぶるだけの卑怯者どもがっ! それに、鈴菜はなにもしてない! 鈴菜は悪くないっ!!」
「ナマイキ……いきなり出しゃばってきて……!!」
「うるさいっ! お前ら全員、ぶっ飛ばしてやるっ!! 鈴菜、お前は逃げろっ!!」

それからの大乱闘は、鈴菜が助けを求めた体育教師が竹刀を持ってきて
「何やっとんじゃお前らぁっ!!!」
と絶叫するまで続いた。


先生からも両親からも、果てには専属メイドからも叱られる。
悪いことをしたとは思っていないけど、一応の世間体というものがあると言われて。
ふくれっ面をしていた私を、唯一笑い飛ばしてくれたのは兄様だった。
学友の人達と一緒に大笑いして
「お前スゲーな!! ひょっとしたら俺達より勇気あんじゃねぇの!?」
「お前、この前タバコポイ捨てしてた不良に何も言えなかったもんなー」
「んだよ、お前だって同じ場所にいただろ!」
などと言いながら私のやったことを全力で褒めてくれた。

そうして、鈴菜を呼んで「写真撮ろうぜ!」と言ってくれる。
その日撮った写真は、私と鈴菜のずっと壊れえぬ友情の始まりとなった。







その事件からしばらく後。
件の講師の人が横領を働いた理由が明らかになった。
講師の旦那さんが大病を患っていたのだ。
保険には入っていたがそれでもなお収入が追い付かない程の。

講師の人は、「やってはいけない、やってはいけない」と何度も自分に言い聞かせたが……
弱っていく夫の姿を見て耐えることが出来なかったそうだ。

事件から9年たった今は旦那さんは無事寛解し、仕事に戻っている。
講師の人も深く反省し、執行猶予もきちんと過ごしきって今は社会に戻っているそうだ。

鈴菜はこの事件をキッカケとし、教会の行う犯罪者更生施設について学び始める。
そして、「どんな凶悪犯に対しても、私は赦しがあるように願うよ」という決意を固めていくのだった。