RECORD

Eno.361 ジャンヌ土岐マリアムの記録

赦すこと

例の事件を経て鈴菜は「赦し」というものについて真剣に学んでいく。
毎日のように教会に通い、犯罪者更生支援をしている神父さんの手伝いをする。
手伝い、と言っても神父さんの身の回りの掃除などだ。
鈴菜がそういうことをやれば神父さんが犯罪者更生の仕事をより多く行える。

私も、天使教のミサで色々な話を聞く。
パリサイ人と徴税人の対比、ザアカイとの食事、
徴税人であるマタイをこそ使徒になされた主の行い、そして放蕩息子の話。

だがそれでも、私としてはどちらかと言えば悪を断罪することの方に意識が向いていた。
母を襲ったような敵性怪奇や鈴菜をイジメていた女子たち。
ああいった連中に対して「許してやろう」などと考えられなかった。


やがて、私は小学四年の時にナチスのことを知る。
歴史の教科はまだだが、様々な漫画やアニメの敵役として度々利用されているこの団体、
よほどバトル漫画などを忌避していない限りは私くらいの年齢で知ることが出来る。

彼らのやったことを調べてみて、私は吐き気がした。最悪なヘドロを食ったような、そんな気持ちだ。

やがて、現在のドイツはナチスを生み出したことに対する反省を大事にしていると聞く。
だから私は、母様にも私の怒りを話してみた。

母様は、元ドイツ人だ。おそらくオーストリア辺りから東に移り住んできたらしい一族の末裔。
漫画やアニメなどで日本を大変好きになり、そのまま帰化した。

だから、20歳になるまでドイツで暮らしていた母様も私のナチスに対する怒りに同調してくれると思った。
「あんなのに賛同した連中は、全員人間のクズだ! 母様だってそう思うだろう!?」
などと声を荒げながら。

その結果は、意外なものだった。
母は少し目を伏せ、語った。
「マリー。確かに、ナチスのしたことは正当化されてはいけないわ。けどね……当時の人は、それに縋るしかなかった人も大勢いたの。
私の大好きな、私のおばあちゃん……マリーにとってのひいおばあちゃん。
その人が心から愛し、誓いのキスをした人も……ナチス党員だった。
けどね。私は、おばあちゃんも、そしておじいちゃんも大好きだった。
ただ、歴史の授業でハーケンクロイツを見る度に……懺悔するような目をしていたわ」

そのことを話す母様の表情は、本当に悲しそうで。私が瞬きをすれば頬が濡れているんじゃないかと思う程だった。

「マリー。一つだけ言っておくわ。私は……ナチス党員だったおじいちゃんも、その人を心から愛したおばあちゃんも……今は天国にいると思っているの」
「え……?」
「だって、神様はそう言うお方だから。徴税人をこそ救いの伝道の使徒となされるお方だから。
私は、怒りの断罪よりもその憐れみを信じたい。そのことで、例えマリーが私のことを嫌いになってしまっても、ね」

もの悲しげな表情だった。だが、その目に宿る意志はとても強いものを感じた。
母様の祖父母は、私が産まれる前に二人とも亡くなっている。
ただ、父様からは二人に大変お世話になったと話を聞けた。
孫娘の結婚式に、老体を押してドイツから日本まではるばるやってきたのだと。


そのことがあった次の日から……私も、鈴菜と一緒に犯罪者更生支援を行う神父さんを手伝うようになっていった。