RECORD
Eno.361 ジャンヌ土岐マリアムの記録
鈴菜の才能と憎悪の増幅
鈴菜が私と同じ管理局の対策課に所属することとなり、固有神秘などの検査が行われる。
その結果、鈴菜には強力な治癒の力があることが判った。
その能力は場の神秘率に乗比例すると言う特徴があった。恐らく、周囲の神秘を利用していくのだろう。
神秘率が50%もあれば並大抵の治癒術師と同じレベル。
敵性怪奇が蠢くような場であれば戦闘不能状態の者でも即座に立ち上がらせることが出来る。
そして、これが一番驚いたのだが……強力な怪奇が暴れている場所なら、「炎を浴びせられ続けている相手を、焼かれている表皮を治し続けることで耐えさせる」だの
「鋭利な刃でスパッとという感じで切り口がキレイであれば、切り落とされた四肢をも元通りに出来る」
レベルまで行けるのだ。
粉砕骨折など、身体の奥深くに多くの治癒の力を届かせねばいけない場合は時間がかかるが
(切り落とされた四肢をくっつける時は、くっつくまでは目で見える範囲なので早く治癒出来る)
それでもその圧倒的とも言える治癒術は数多くの戦闘職の人々を救ってきた。
特に、回復手段を持てない代わりに攻撃には自信がある私と鈴菜が組めば、正規職員の人々にも並べる程のタッグとなった。
中三の夏休み頃にもなれば私と鈴菜の仲は管理局でも女学院でも
「知る人ぞ知る夫婦」
扱いされるようになる。
前者は上述の通り。
後者については、例え性犯罪者だろうと本気で悔いて立ち上がろうとする人相手なら支えたいと願う鈴菜と
そんな鈴菜を守りたいと思う私の間で口喧嘩が絶えなくてもなんだかんだ元通りになるのを冷やかされてのことだ。
鈴菜は私を「厳しすぎる」と言うが、その正義感のお陰で私が鈴菜をいじめから助けたことを覚えている。
私は鈴菜を「優しすぎる」と言うが、その厳しくも優しい姿勢がハンバーグサンドという形で私を助けてくれたことを忘れない。
だから、お互い主義主張が違っててもむしろ仲が深まっていくのだ。
任務がある度門限ギリギリに二人で帰ってくるのもあったと思う。
少し前まではいじめから助けた子やそんな姿勢を見た後輩などからのラブレターが私の下駄箱に入っている事もあったが、
私と鈴菜の仲が「知る人ぞ知る夫婦」と言う形になっていくに連れそれもなくなっていった。
私と言えば、そんな状況を嬉しく思う一方鈴菜に対する恋心が暴走しないよう気を付けていた。
鈴菜は私のことを大好きだとは言ってくれてはいるが、それが親友としてのものなのか恋心としてなのかは判らない。
私は鈴菜とキスもしたかったし「抱きしめる」こともしたかったが、全て抑えて、共にお風呂に入るので我慢していようと務めていた。
それでも、私は幸福だった。
想い人とバディとなり、その証たる指輪をお互いの指に通し、「私のマリー」「私の鈴菜」と呼べるだけで。
共に任務をこなし、私が自身の呪いを恥として思うことも少なくなり。
何より、月1で飲ませてくれる鈴菜の血が何より甘美だった。
吸血鬼としての本能だけでなく、「イヤだけど、あなたになら」と言ってくれた鈴菜との絆も、その味の一部として感じられたから。
そんな幸せは、まもなく崩れる。中三の冬の頃に。
その日は、乾燥した風が吹いていた。
火事が起これば、一気に燃え広がるだろうと予測されていた。
一件の、火事が起こった。
火元となった家は全焼し、そこにいた夫婦は二人とも焼け死んでしまった。
ただ、その家の娘だけは寮暮らしだったお陰で難を逃れたのだが。
その全焼した家の、残った表札に書いてあった文字は──「日坂」
鈴菜は突如として、実の両親を二人とも失った。そして、調査により──その火事を見ていた野次馬の中に、青い長髪の男がいた。
当時の私がどれ程凄まじい怒りに支配されたかなど、もはや言う必要などないだろう。
管理局の調査を全面的に手伝い、そして私は男について情報を得る。
男の名は、緋月啓真。
裏世界を経由し他家に侵入。放火を行って自分だけ裏に逃げ、別の通路から表に戻ってその火事を眺めるという神秘犯罪者だった。
管理局は特別対策室を設置してこの男を誅殺することを決意。私はそれに参加を希望した。
学生協力者には荷が重いと言われたが、私が石神井ニュータウンの生き残りだと伝えれば局は参加を認めてくれた。
それと同時に、私一人だけが上官に呼び出される。
ここで、私はあの日の火事についての事実を知ることになった。
焼け落ちた建物の内、古い教会を改装したグループホームは実は封印指定遺物「カークスの火種」を封印していた教会だったのだ。
ギリシャ、ローマ神話に出てくる炎を操りし三つ首の怪物、カークス。
カークスはヘラクレスによって退治されるが、その怨念が自在に火をつける呪具となっていた。外見上は中に燃える火が見えるルビーのようだという。
これを手にしたものは炎への妄執と他者への加害欲求が増幅される。
触るだけで精神に危害を及ぼすため破壊するための研究も出来ず、そのため封印指定されていた。
封印には特殊な施設が必要で、だからノーブル会の下部組織の主導のもと石神井ニュータウンのあたりに設置されていた。
表向きは小さな町教会。地下が裏世界に繋がっていて呪具を封じ込めていた。
だが、戦後の急発展の最中、それに伴う管理の複雑化が原因で教会は管理していた下部組織の手から離れてしまい、
信徒の少なくなった教会はグループホームに変わってしまった。
文献も残っておらず、誰もホームの下に封印指定呪具がある等と知らないようになってしまった。
だが、それが幸いしてかいわゆる「古代遺物の盗掘者」などの目からも認識されることがなくなる。
そう、この呪具はもはや人々の認知の外に置かれたのである。
その呪具が、盗まれていた。
私はそれを聞いて、あの日聞いた啓真の言葉を思い出す。

半身。奴は、確かにそう言っていた。
それが本当なら……啓真は私と同じようにカークスと悪魔の契約か何かを交わし、その力を得ていたのかもしれない。
それを完全なものとするためにあの日の火事を起こしたのだとしたら──
そのことを話せば、上官の人は
「なるほど、そう繋がるか……。ならば、緋月啓真誅殺任務と並行し、『カークスの火種』を回収する。だが、火種は封印指定遺物。土岐くん、このことは日坂くんにも知らせてはならない。頼めるな?」
私は二つ返事で了承した。
そうして、緋月啓真誅殺任務と火種回収任務とを兼ねて。
最近啓真が出没した──おそらくは下見だろう──とみられる旅館に向かう。
誅殺任務を担当する私たち十数人の中で、火種回収のことを知っているのは私の他に正規の職員で二人だけ。
極秘任務と並行し、緋月啓真を必ず殺す。
私の心は、烈火のごとく燃える炎に支配されていた。
その結果、鈴菜には強力な治癒の力があることが判った。
その能力は場の神秘率に乗比例すると言う特徴があった。恐らく、周囲の神秘を利用していくのだろう。
神秘率が50%もあれば並大抵の治癒術師と同じレベル。
敵性怪奇が蠢くような場であれば戦闘不能状態の者でも即座に立ち上がらせることが出来る。
そして、これが一番驚いたのだが……強力な怪奇が暴れている場所なら、「炎を浴びせられ続けている相手を、焼かれている表皮を治し続けることで耐えさせる」だの
「鋭利な刃でスパッとという感じで切り口がキレイであれば、切り落とされた四肢をも元通りに出来る」
レベルまで行けるのだ。
粉砕骨折など、身体の奥深くに多くの治癒の力を届かせねばいけない場合は時間がかかるが
(切り落とされた四肢をくっつける時は、くっつくまでは目で見える範囲なので早く治癒出来る)
それでもその圧倒的とも言える治癒術は数多くの戦闘職の人々を救ってきた。
特に、回復手段を持てない代わりに攻撃には自信がある私と鈴菜が組めば、正規職員の人々にも並べる程のタッグとなった。
中三の夏休み頃にもなれば私と鈴菜の仲は管理局でも女学院でも
「知る人ぞ知る夫婦」
扱いされるようになる。
前者は上述の通り。
後者については、例え性犯罪者だろうと本気で悔いて立ち上がろうとする人相手なら支えたいと願う鈴菜と
そんな鈴菜を守りたいと思う私の間で口喧嘩が絶えなくてもなんだかんだ元通りになるのを冷やかされてのことだ。
鈴菜は私を「厳しすぎる」と言うが、その正義感のお陰で私が鈴菜をいじめから助けたことを覚えている。
私は鈴菜を「優しすぎる」と言うが、その厳しくも優しい姿勢がハンバーグサンドという形で私を助けてくれたことを忘れない。
だから、お互い主義主張が違っててもむしろ仲が深まっていくのだ。
任務がある度門限ギリギリに二人で帰ってくるのもあったと思う。
少し前まではいじめから助けた子やそんな姿勢を見た後輩などからのラブレターが私の下駄箱に入っている事もあったが、
私と鈴菜の仲が「知る人ぞ知る夫婦」と言う形になっていくに連れそれもなくなっていった。
私と言えば、そんな状況を嬉しく思う一方鈴菜に対する恋心が暴走しないよう気を付けていた。
鈴菜は私のことを大好きだとは言ってくれてはいるが、それが親友としてのものなのか恋心としてなのかは判らない。
私は鈴菜とキスもしたかったし「抱きしめる」こともしたかったが、全て抑えて、共にお風呂に入るので我慢していようと務めていた。
それでも、私は幸福だった。
想い人とバディとなり、その証たる指輪をお互いの指に通し、「私のマリー」「私の鈴菜」と呼べるだけで。
共に任務をこなし、私が自身の呪いを恥として思うことも少なくなり。
何より、月1で飲ませてくれる鈴菜の血が何より甘美だった。
吸血鬼としての本能だけでなく、「イヤだけど、あなたになら」と言ってくれた鈴菜との絆も、その味の一部として感じられたから。
そんな幸せは、まもなく崩れる。中三の冬の頃に。
その日は、乾燥した風が吹いていた。
火事が起これば、一気に燃え広がるだろうと予測されていた。
一件の、火事が起こった。
火元となった家は全焼し、そこにいた夫婦は二人とも焼け死んでしまった。
ただ、その家の娘だけは寮暮らしだったお陰で難を逃れたのだが。
その全焼した家の、残った表札に書いてあった文字は──「日坂」
鈴菜は突如として、実の両親を二人とも失った。そして、調査により──その火事を見ていた野次馬の中に、青い長髪の男がいた。
当時の私がどれ程凄まじい怒りに支配されたかなど、もはや言う必要などないだろう。
管理局の調査を全面的に手伝い、そして私は男について情報を得る。
男の名は、緋月啓真。
裏世界を経由し他家に侵入。放火を行って自分だけ裏に逃げ、別の通路から表に戻ってその火事を眺めるという神秘犯罪者だった。
管理局は特別対策室を設置してこの男を誅殺することを決意。私はそれに参加を希望した。
学生協力者には荷が重いと言われたが、私が石神井ニュータウンの生き残りだと伝えれば局は参加を認めてくれた。
それと同時に、私一人だけが上官に呼び出される。
ここで、私はあの日の火事についての事実を知ることになった。
焼け落ちた建物の内、古い教会を改装したグループホームは実は封印指定遺物「カークスの火種」を封印していた教会だったのだ。
ギリシャ、ローマ神話に出てくる炎を操りし三つ首の怪物、カークス。
カークスはヘラクレスによって退治されるが、その怨念が自在に火をつける呪具となっていた。外見上は中に燃える火が見えるルビーのようだという。
これを手にしたものは炎への妄執と他者への加害欲求が増幅される。
触るだけで精神に危害を及ぼすため破壊するための研究も出来ず、そのため封印指定されていた。
封印には特殊な施設が必要で、だからノーブル会の下部組織の主導のもと石神井ニュータウンのあたりに設置されていた。
表向きは小さな町教会。地下が裏世界に繋がっていて呪具を封じ込めていた。
だが、戦後の急発展の最中、それに伴う管理の複雑化が原因で教会は管理していた下部組織の手から離れてしまい、
信徒の少なくなった教会はグループホームに変わってしまった。
文献も残っておらず、誰もホームの下に封印指定呪具がある等と知らないようになってしまった。
だが、それが幸いしてかいわゆる「古代遺物の盗掘者」などの目からも認識されることがなくなる。
そう、この呪具はもはや人々の認知の外に置かれたのである。
その呪具が、盗まれていた。
私はそれを聞いて、あの日聞いた啓真の言葉を思い出す。

「君のことは特別に生かしておいてあげよう。私はこれから失われた半身を取り戻す。もはや管理局の連中など恐れる必要はない。せいぜい私のもたらす『恐怖』を喧伝したまえ」
半身。奴は、確かにそう言っていた。
それが本当なら……啓真は私と同じようにカークスと悪魔の契約か何かを交わし、その力を得ていたのかもしれない。
それを完全なものとするためにあの日の火事を起こしたのだとしたら──
そのことを話せば、上官の人は
「なるほど、そう繋がるか……。ならば、緋月啓真誅殺任務と並行し、『カークスの火種』を回収する。だが、火種は封印指定遺物。土岐くん、このことは日坂くんにも知らせてはならない。頼めるな?」
私は二つ返事で了承した。
そうして、緋月啓真誅殺任務と火種回収任務とを兼ねて。
最近啓真が出没した──おそらくは下見だろう──とみられる旅館に向かう。
誅殺任務を担当する私たち十数人の中で、火種回収のことを知っているのは私の他に正規の職員で二人だけ。
極秘任務と並行し、緋月啓真を必ず殺す。
私の心は、烈火のごとく燃える炎に支配されていた。