RECORD
Eno.208 水宮 一依の記録
とある看視役の帳
「──なるほど、つまり呪われていたという認識を持たせる、ということですね?」
ある少女…否、青年を監視していた女は、その監視対象であるはずの男に撓垂れ掛かっていそう確認を取るように言葉を零す。
一方の青年はと言えば、監視対象の女の頬を愛でるように撫でながら、その耳元で囁くように言葉を紡いでいく。
「そういう事さ。キミは私に呪いを受けて操られていた……そう思わせればいい」
青年の言葉に、女…妖艶な笑みを浮かべて頷く。
その瞳には輝きはなく、まるで人形のように生気を感じさせない濁ったモノ。
「当然、そう思わせるためにキミを本当に呪いはするがね。
なんにせよ、解呪で彼女は時間を要するだろうし……それによって一つの隙が出来る」
その髪を弄び、青年は妖艶な笑みを浮かべる。
掌で転がる小瓶には、かの青年の同胞であり傀儡である少女の鮮血が揺れていた。
「"これでもう彼女は彼の支配下にはない筈だ"……警戒はしていても、そう考えるのが普通でしょうね。
特に貴方の呪いの力を知っているのならば、警戒するのはまず其方でしょうから」
青年の掌で転がる小瓶を見下ろし、女は無感情な声で呟く。
されどもその表情だけは、どこか陶酔したように恍惚なものとなっていた。
「そういうこと、変わらずキミは情報を送ってくれればいい。
彼女がどこに居て、何をしているのか──誰がいつ監視しているのかをね」
青年のその言葉に、女の表情は更に恍惚なものとなっていく。
まるで、その命令が至高であるとでも言うかのように。
女の手が絡み、受け渡されるのはひとつのUSBメモリ。
青年はそれを受け取ると、そっと愛でるように撫でてから懐へとしまい込んだ。
「下調べを済ませたものと、私への私的な連絡先です」
うっとりとした表情で、女は青年へとすり寄る。
その表情は妖艶な笑みを浮かべつつも、その視線の焦点は定まらず、何処か遠くへと向けられていた。
「流石、仕事が早い~♪
……じゃ、あとは仕込みの方もよろしくね?」
青年が女の唇をなぞれば、ぶるりと女はその身体を震わせる。
数瞬の後、大きく口を開いて舌を伸ばした女に向けて、彼は瓶の蓋を開けてその中身を数滴だけ滴らせる。
赤い雫が女の喉に通っていく度に、ビクンと彼女の身体は跳ねていく。
「んっ……お任せを──来るべき時に、貴方の行いを見る眼が眩むように」
ごくりと喉を鳴らし、女はその首を垂れて身を離す。
──────────
─────
……これはそう、少女がその解呪を済ませる前の事。
青年の策謀が動き出す、その顛末のひとコマである。
監視役は既にその心身をかの少女の血で蝕まれていた。
呪いを解けども、人形と変わらぬモノとなった事実はもはや覆しようはない。
神秘など扱わずとも、策謀を為す蜘蛛の魔の手は直ぐ其処に。

ある少女…否、青年を監視していた女は、その監視対象であるはずの男に撓垂れ掛かっていそう確認を取るように言葉を零す。
一方の青年はと言えば、監視対象の女の頬を愛でるように撫でながら、その耳元で囁くように言葉を紡いでいく。
「そういう事さ。キミは私に呪いを受けて操られていた……そう思わせればいい」
青年の言葉に、女…妖艶な笑みを浮かべて頷く。
その瞳には輝きはなく、まるで人形のように生気を感じさせない濁ったモノ。
「当然、そう思わせるためにキミを本当に呪いはするがね。
なんにせよ、解呪で彼女は時間を要するだろうし……それによって一つの隙が出来る」
その髪を弄び、青年は妖艶な笑みを浮かべる。
掌で転がる小瓶には、かの青年の同胞であり傀儡である少女の鮮血が揺れていた。
「"これでもう彼女は彼の支配下にはない筈だ"……警戒はしていても、そう考えるのが普通でしょうね。
特に貴方の呪いの力を知っているのならば、警戒するのはまず其方でしょうから」
青年の掌で転がる小瓶を見下ろし、女は無感情な声で呟く。
されどもその表情だけは、どこか陶酔したように恍惚なものとなっていた。
「そういうこと、変わらずキミは情報を送ってくれればいい。
彼女がどこに居て、何をしているのか──誰がいつ監視しているのかをね」
青年のその言葉に、女の表情は更に恍惚なものとなっていく。
まるで、その命令が至高であるとでも言うかのように。
女の手が絡み、受け渡されるのはひとつのUSBメモリ。
青年はそれを受け取ると、そっと愛でるように撫でてから懐へとしまい込んだ。
「下調べを済ませたものと、私への私的な連絡先です」
うっとりとした表情で、女は青年へとすり寄る。
その表情は妖艶な笑みを浮かべつつも、その視線の焦点は定まらず、何処か遠くへと向けられていた。
「流石、仕事が早い~♪
……じゃ、あとは仕込みの方もよろしくね?」
青年が女の唇をなぞれば、ぶるりと女はその身体を震わせる。
数瞬の後、大きく口を開いて舌を伸ばした女に向けて、彼は瓶の蓋を開けてその中身を数滴だけ滴らせる。
赤い雫が女の喉に通っていく度に、ビクンと彼女の身体は跳ねていく。
「んっ……お任せを──来るべき時に、貴方の行いを見る眼が眩むように」
ごくりと喉を鳴らし、女はその首を垂れて身を離す。
──────────
─────
……これはそう、少女がその解呪を済ませる前の事。
青年の策謀が動き出す、その顛末のひとコマである。
監視役は既にその心身をかの少女の血で蝕まれていた。
呪いを解けども、人形と変わらぬモノとなった事実はもはや覆しようはない。
神秘など扱わずとも、策謀を為す蜘蛛の魔の手は直ぐ其処に。

「我らの愛憎の生末に、横槍なんて無粋すぎる。
なぁ──キミだってそうだろう?」