RECORD
Eno.2803 花園 茉佑香の記録
花園茉佑香行動記録-1
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20251213-Case2632
(前略)
[特別民間協力者-花園茉佑香の供述]
当該神秘保有者の神秘違反、傷害罪等の立件以前の管理局との接触は、現場急行を命じられた監視課の花園茉佑香による厳重注意及び処罰であるため、担当者からの聴取も執り行っている。
この時の主な管理局の処罰理由は当該神秘保有者の模擬戦中の過度な神秘行使、及びそれによる相手の重軽傷から来るものであった。花園茉佑香は現場の状況から両名の神秘行使が過熱化し、負傷に至る可能性は加害者側にもあり、対応の延長線であることから減刑を特記。当時はその申請が受理され、通常の違反時よりも軽度な処罰で処理されている。
尚、今回のケースにおいて当該神秘保有者が負傷させたものは、この当時の模擬戦の関係者が殆どであり(後略)
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少女は堅苦しい文面の書類を繰り返し読んでは、暗い顔でため息をつく。そこに込められているのは、自身への戒め。
ある日のこと。「模擬戦で神秘使用の違反があった」と通報を受けて現場に駆けつけ、状況を作り出した大男とそれを責め立てる数人を相手に、少女は聴取を行った。大男との会話が脳裏を過る。
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大男は明らかに狼狽えていた。みだりに神秘を使用した場合の罪は重い。お互いにある程度まで合意している模擬戦の場合であっても、このような"やりすぎ"には適切な処罰が下される。例えば、裏世界からの永久追放などだ。
先輩からの『仕事に私情を持ち込まないこと』というアドバイスも頭に浮かんでいた。それに従うなら、大男の言い分は無視してしまうのが正しかったのだろう。だがそこで、少女は情状酌量の余地を探してしまった。
その結果が、この報告書だ。現場判断で大男を信じて減刑を申し出たのに、当の本人は反省するどころか報復に走った。顛末を見れば明らかに間違ったことをしでかしていることが、少女の肩に重くのしかかる。
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事後処理は淡々としたものだった。誰も少女を責めない。ただいつもの仕事の延長として振る舞われた。

大男のセリフを繰り返すように呟く。所詮自分は民間協力者。そのうえまだ子供だ。責任能力を追求されないのが、ひどくもどかしい。その事実を受け入れられず、少女はぼうっとしている。

結局、仕事も手につかず、途方に暮れながら帰路に就く。その道すがら、喫煙ルームの近くを通りがかった時に、それは聞こえてきた。
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瞬間、少女は走り出していた。一刻も早くその場から離れたいが故に。視界の端から涙がポロポロとこぼれ落ちる。

誰に言い訳するでもなくひとりごちた。今すぐ部屋に帰って枕に顔を埋めてしまいたい、そんな衝動に突き動かされるままに走り続ける。寮の大広間を急いで抜けて、自室のベッドに飛び込んだ。
少女はその日生まれて初めて、一人で泣いたという。
20251213-Case2632
(前略)
[特別民間協力者-花園茉佑香の供述]
当該神秘保有者の神秘違反、傷害罪等の立件以前の管理局との接触は、現場急行を命じられた監視課の花園茉佑香による厳重注意及び処罰であるため、担当者からの聴取も執り行っている。
この時の主な管理局の処罰理由は当該神秘保有者の模擬戦中の過度な神秘行使、及びそれによる相手の重軽傷から来るものであった。花園茉佑香は現場の状況から両名の神秘行使が過熱化し、負傷に至る可能性は加害者側にもあり、対応の延長線であることから減刑を特記。当時はその申請が受理され、通常の違反時よりも軽度な処罰で処理されている。
尚、今回のケースにおいて当該神秘保有者が負傷させたものは、この当時の模擬戦の関係者が殆どであり(後略)
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「……はあ」
少女は堅苦しい文面の書類を繰り返し読んでは、暗い顔でため息をつく。そこに込められているのは、自身への戒め。
ある日のこと。「模擬戦で神秘使用の違反があった」と通報を受けて現場に駆けつけ、状況を作り出した大男とそれを責め立てる数人を相手に、少女は聴取を行った。大男との会話が脳裏を過る。
「ち、違うんだ! 威力を相殺するために出力が必要だった! ただちょっと噛み合いが悪かっただけで……当てる気はなかったんだ!」

「わざとじゃなくても、大怪我させたことは事実だよ! どう責任取るつもり!?」
「せ、責任……彼の知人や関係者には幾らでも謝るし、模擬戦からもきっぱり足を洗う! もう二度とこんなことは起こさない! 頼む、信じてくれ!」
大男は明らかに狼狽えていた。みだりに神秘を使用した場合の罪は重い。お互いにある程度まで合意している模擬戦の場合であっても、このような"やりすぎ"には適切な処罰が下される。例えば、裏世界からの永久追放などだ。
先輩からの『仕事に私情を持ち込まないこと』というアドバイスも頭に浮かんでいた。それに従うなら、大男の言い分は無視してしまうのが正しかったのだろう。だがそこで、少女は情状酌量の余地を探してしまった。
その結果が、この報告書だ。現場判断で大男を信じて減刑を申し出たのに、当の本人は反省するどころか報復に走った。顛末を見れば明らかに間違ったことをしでかしていることが、少女の肩に重くのしかかる。
「えー……君が担当した一ヶ月謹慎の大男だが、彼がまた傷害事件を起こした。それも複数」

「え……」
「被害者は例の件で彼を責めていた者たち。この件について前後要因の究明のため、聴取に付き合って欲しい。場所は────」
事後処理は淡々としたものだった。誰も少女を責めない。ただいつもの仕事の延長として振る舞われた。

「責任……か……」
大男のセリフを繰り返すように呟く。所詮自分は民間協力者。そのうえまだ子供だ。責任能力を追求されないのが、ひどくもどかしい。その事実を受け入れられず、少女はぼうっとしている。

「……退勤しよ」
結局、仕事も手につかず、途方に暮れながら帰路に就く。その道すがら、喫煙ルームの近くを通りがかった時に、それは聞こえてきた。
「はあ……おかげで今日も残業だよ。これだからガキは……」

「……っ!」
瞬間、少女は走り出していた。一刻も早くその場から離れたいが故に。視界の端から涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「そんなっ、そんなつもりじゃなかったのにっ、私っ」
誰に言い訳するでもなくひとりごちた。今すぐ部屋に帰って枕に顔を埋めてしまいたい、そんな衝動に突き動かされるままに走り続ける。寮の大広間を急いで抜けて、自室のベッドに飛び込んだ。
少女はその日生まれて初めて、一人で泣いたという。