RECORD

Eno.208 水宮 一依の記録

とある復讐者の帳

「へぇ、つまりは家の方に疑われてるって事かい?」

端末を片手に、ホテルの窓から外を見やる一人の麗しい少女…のような容姿の青年。
薄桃の煌びやかな髪を靡かせて、彼は端末を口元に寄せながら呟く。

『はい、どうやら一依さまは私の解呪を水宮に秘匿したようでして。
 元より私自身に付けられていた水宮の眼の方が──』

端末の向こうから、女性の声が聞こえる。
その声を聴き、青年は小さくため息を吐いた。

彼はゆっくりと窓から視線を外へと移し、その眼を細める。
その瞳は、深い海のように澄んでいながらも、どこか狂気的な光を放っていた。

「OK、今は何も無いって事は泳がせてるんだろうね。
 そのままでいい、彼女と家で連携が取れてないならそれを利用するまでだ」

青年はそう結論付け、近くに置かれていたボトルとグラスを手に、部屋の奥へと移動する。
そして窓の傍に置かれたソファーに身を投げると、手に取ったボトルの栓を片手で開けながらグラスに酒を注いだ。
軽く香りを嗅ぎ、その芳醇な酒を愉しんでから軽く一口飲むと、青年は深く胸を上下させた。

「それに、もう種は撒いてるんだろう?」

『えぇ、もちろん』

端末越しに聴こえる女性の声。
青年は軽くグラスを揺らしながら、その酒を嗜む。

「ならいいさ、後は報告を待つだけだ」

そう呟き、端末の電源を切ってボトルと共にテーブルに置く。
そのまま天井を仰いで軽く息を吐き、グラスを再び手に取りながら呟く。

「秘匿の種撒きはこれで十二分。
 あとは切欠か…呼び出すか、或いは──」

仕込みの気配を察知した彼女の方から動き出すか。


何方にせよ、残された時間がそう多くないのは明らかな事実であった。