RECORD

Eno.96 加瀬秋日佐の記録

帰省3


夜の景色が窓の外に流れていく。
前の席から両親の会話が断片的に聞こえる。
後ろから、声が聞こえる。

「ひさくん」

聞こえない筈の声、だから幻だ。

「ひさくん?」

分かりきっているのに、くすくすと笑う声があまりにも柔らかく穏やかだから振り返りかけてしまう。
どうにか留まって窓の外をじっと見つめた。灯りがきらきらと流れていく。

「やぁって、もう死んだやろ」
「な、死んでくれたやろ」
「分かれてもうて、もうちゃうよ。やから死んだんよ」

「手遅れ」

それでも構わないと思うのだから、そうなのだろう。この声の言う通り。
だからこそ、きっとこれは己に由来する何か。

「その声で喋んなや」

これだって誰にも拾われない。返事は何処からもなかった。