RECORD

Eno.96 加瀬秋日佐の記録

帰省5


押入れの中からアルバムの詰まった箱を取り出す。随分とぎっしりとした中からいくつか取り出してぱらぱらと捲る。
隣で母親も同じように適当な一つを手に取れば、懐かしそうに眺めた。

「ほんま、昔はこんなにかわいかったんにねえ。見てみ、これ」
「うわ、昔の俺めっちゃかわええやん。姉ちゃんよりかわいない?」
「怒られるよ」

ごくごく幼い、物心もつかない頃。少し育って、小学生。中学生以降はあまりないけれどいくつかを見繕う。

「こんなん誰に見せるん?お友達?」
「まあ、まあ」

ふうんと返事をしながら母親はいくつかの写真をじっと見つめて、アルバムを閉じれば選ばれなかったものを箱に戻していく。

「見せ終わったら送ってくれたら良いよ。どうせあんた次帰ってくんの、ずっと後なんやろ」
「せやなあ。今年ってもう修論やから」

卒論の時期の忙しさはまだ親の記憶にも新しかったのだろう。それに輪をかけた忙しさになることは何の違和感もなく受け入れられる。

「博士も行くんやんね」
「そのつもり。ええやんな?」
「ええよ。あんたがしたいようにしてええけど、ただ、危ないことはせんようにしてくれたら」

箱は出された時よりずっと隙間が空いたまま、押し入れにしまわれていく。
近くに出されたアルバムが丁寧に積まれる。

「まあ、もし危ないことに手出してもうて、困ったことあったら、頼りね」
「なんそれ」
「あんた、いらんことしいやろ」

息子を見る母親の瞳は懐かしい景色を見ているのだろう。
幼い頃の無鉄砲さ、少し育ってからのやんちゃ盛り、すっかり大人顔負けになってからの突飛な行動。
どれほど大きくなっても親からすれば、子はいつまで経っても子だ。それに加えて息子の性格を二十年以上も見てきたのだから。

「あんたはほーんま、お姉ちゃんと違ってめちゃくちゃしよるでしょ」
「や?姉ちゃんは隠すのうまいだけやったで」
「ほんまにねえ。お姉ちゃんのがかしこかったなあ」
「もうそれは嫌味やん」

笑う母親の顔にもさして懐かしさはなかった。半年ぶりであっても、その程度ではやはりあまり変わらない。
積まれたアルバムを自室に持っていこうと、手を伸ばしたところでふと思い出す。

「せや。俺のもんでいっちゃん昔からあるもんってなん?」
「あんたのもん?」
「俺のもんとか、俺の部屋とか」
「ほんならあれやない?壁掛けの時計」

言われてようやく思い出したのは黒字に白で数字の書かれたシンプルな掛け時計のことだった。
思い返せば確かにあれは物心ついたころから部屋にある。

「あれっていつからあるん」
「ほんまに昔……あんたが生まれた頃にお父さんが選んで買うたやつよ。あんたの部屋用にって」

来歴を聞いたことはなかったから、素直にへえと声が漏れた。
思った以上に昔からあったものらしい。

「それ持って帰ってええ?」
「ええけど何に使うん」
「いっちゃん昔からあるもん見せる会」
「お友達とほんまに変なことしとるんやね」

呆れたように母親が笑う。こんな声を何度も聞いたことがある。

「あんた、何や変わったねえ。大人になっても、全然成長するんね」
「え、そうか?」
「そうよ。全然ちゃうわ」

友人は己を変わらないと言った。己は己の変化なぞわからない。
果たして己は何が変わったのだろう。
男は少し首を傾げて、改めてアルバムを持ち直した。