RECORD

Eno.26 朔 初の記録

いつつめ

朔初はアルバイトをしている。
彼女にはお金が必要だった。
さまざまを理由として。
だから、高校に上がったらアルバイトをするというのは決めていたことである。

昔ながらの中華料理屋は、学校の近くにあった。
家の近くよりは学校から近いほうがいい。
し、もう一つ理由がある。

小さい店の接客業だからである。

朔初はコミュニケーションを取るのが大嫌いだ。
人が嫌いだった。他人が嫌い。
しかして、将来を考えるとそうもいってはいられないだろう。
誰かと対話をすることが必要となる先行きだ。
面接にせよ。なんらかの仕事につくにせよ。
対面には、上の人がいる。
腰を低くして頭を下げて。内側で舌を出しながら。
話すということは、何より必要なことだった。
言葉を口にし、発言を持つ。

接客バイト。

強制的なコミュニケーションと、頭の回転による会話の形成。
時折理不尽な事柄に遭遇しつつも、それを我慢することを強いられる場。
様々な対人能力が試される場所であると、朔初は考えている。
仕事ならば仕方ない。人と接するのは仕方がないことだった。
そうやって自分の頭も納得もできることだ。
何よりお金がもらえるから。
ここの店、結構給料は、周りの飲食店と比べると良かった。

まあ、お金がもらえる以上に学びを得たい。
小さい個人経営の店であるならば、客は多く来れども、店内の人数は限られてくる。
忙しくなろうと初心者が走り回っても処理できる人数なことだろう。
また、高校生である年齢も適していた。
責任感を持たないわけではない。が、ある程度失敗も許される年齢だろうから。

「………」

バイトに出勤する前に。
朔初は鏡の前で笑って見せる。
朗らかに、明るく。
愛想の良さはやりやすかった。
短い時間の中、普段と反対をすればいいだけなのだから。

「…いってきます」



だからそうやって、朔初は今日も外に出るのだ。