RECORD

Eno.107 芟花萌花の記録

𝑰𝒏 𝒕𝒉𝒊𝒔 𝒘𝒂𝒚, 𝒎𝒚 𝒕𝒓𝒆𝒂𝒔𝒖𝒓𝒆𝒔 𝒈𝒓𝒐𝒘 𝒍𝒊𝒕𝒕𝒍𝒆 𝒃𝒚 𝒍𝒊𝒕𝒕𝒍𝒆.

5月9日―――16歳の誕生日。
その当日の、夕刻のこと。


「……よ~し、できたっ」



トリニティ北摩コート 601号室のベランダで、そんな小さな声がした。
薄暗くなってきた空の下、しゃがみこみ見下ろす先にはいくつかの植木鉢が並んでいる。

植えられたのは、きゅうりの苗とペチュニアの苗。
ペチュニアの方はミックス種というらしく、その色は、花が咲いてみてのお楽しみなんだとか。

それにしても。
こうして土を弄っていると、母の姿が思い出される、母は花を育てるのが好きだった。
その背を見て育ってきたし、手伝いだってしてきたものだが、こうやって自分で花を育てるのは初めてといっていいだろう。


「どんな色の花が咲くかなあ……」



からら。ベランダから室内に戻る。
今日は、兄が晩ご飯を作ってくれると言ってくれた。
どんな料理が出てくるかなあ。それだって、かなり楽しみだ。

とはいえ、土弄りの手で食卓につくわけにもいくまい。
料理の邪魔にならないようにと、キッチンを過ぎ、洗面台へと向かって手を洗う。
そうして濡れた手を拭いて―――ふと、顔を上げると、鏡にはそんな自分の顔が映っている。

ぺた、ぺた。
洗ったばかりの手で頬を触る。
すると、当然鏡の向こうの自分も、おんなじ仕草を行って。


「……へへ」



そうして、やわらかに破顔した。

きゅうりの苗に、ペチュニアの苗。
兄はくま、自分はうさぎと、種類は違えどお揃いで買ったキーホルダー。
兄手作りの、晩ご飯。
―――思い浮かべるほど、我ながら、なんとも幸福そうな顔である。

それでいて。
まさかこの翌朝、エプロンひとつが増えるだなんて、想像すらもしていないのだから。
本当に、まったく。これもまた我ながら、困ったものだ。