RECORD

Eno.896 百堂 巡の記録

d04.杞憂だと思いますけどね

「ということで、これがマッスル猫ちゃんです」

 すっと差し出されたスマホの画面に写っているムキムキマッチョな猫ちゃんwith花丸畑に、四ツ目の講師は黙って天を仰いだ。深呼吸のためである。

「……人間生活楽しそうだねえ塾長……」
「それはもう」

 元気なお返事。
 必死に整えられた呼吸の間から吐き出された言葉に、塾長はとても満足気な顔をしてスマホを引っ込めた。
 表世界の話を生徒たちにしょっちゅうしているのは事前学習のためであるらしいが、その内の何割かは子供が大人に虫を見せるアレではないかと四ツ目はここ半世紀ほど疑っている。というか、多分そうだろうと思っている。

「君も行ったらいいですよ表世界」
「いやだよう、アッチの労働は性に合わないってよおく分かったんだから。帰るのが丑三つ時なんて妖でも死んじまう」
「なんでそうブラックな会社に当たるんですか?」
「アタシが聞きたいよ」

 かと言って、表でまで塾長のところで働くというのもなんとなく負けたような気がするので。表に行くのは物見遊山か迷子の見送りだけで充分だ。

「知り合いが増えてもあんまり人間相手に名乗るんじゃあないよ、アンタ伝承なんて特に変わりやすいんだから」
「コードネームはセンドウさんにする気ですよ」
「馬鹿たれ」

 すぱん、と出席表で頭を叩く音。
 4つのジト目から塾長が開放されたのは「怪異としての名はせめて人には聞かれるまで答えるな」と下手な授業よりきっちり言い聞かせられた後のことだ。