RECORD

Eno.26 朔 初の記録

むっつめ

「……」

朔初はモノレールに揺られていた。
かたん、ことんと音はしない。
電車ではないのだから。
空いた空間の中、空いているから席の横に買い物袋を座らせて。
西区に着くまでの時間を怠惰に過ごしていた。
勉強することもなく。
遊ぶこともなく。
頭を空にするようにして、自分の住処へ帰るための、時間の浪費を繰り広げている。
勿体無いとは思うけど。
少し考え事があるものだから。


「……」
「あたしが怖いって、なんだろ」

はて。
祖父が祖母に伝えていた言葉の意味を考え、目を伏せるか。
怖い、というのは、嫌い、とは形や異なるものだ。
怖いというのは、それすなわち恐怖心。
何かを恐れているとでもいうのか。
私を。


「…」


もう駅だ。
アナウンスの中、朔初はおりたった。



──立派なもんでしょ、じーちゃん。

何も怖いことなんてないのにな。
何が恐ろしいんだろうか。小娘1人。
年老いていても、もしかしたらあなたが本気になって殴り掛かれば、負けるかもしれない小娘なんだぜ。
何を思うんだか。


「…」

いいのだった、まあ、どうでも。
あの人も大変な人だ。
可哀想とは思わない。ただ、大変な人だ。
小娘1人が転がり込んでくるという話になった矢先、自分の妻の病気が進みきっている話が舞い込んできている。
あの2人は長年仲睦まじく連れ添ってきたそうだと聞いているから、祖父の悲しみも計り知れないことだろう。
ずっと仕事ばかりをしてきたのだというが、祖父の生活を見る限り、互いに協力しあって過ごしているのは窺えた。
あの人は料理ができる。
あの人はある程度の家事ができる。
ボケておらずしっかり者と言えばそれまでかもしれないが。

「…」

自分は異物なのだと朔初は思った。
これは自嘲などではなく現状から判断できる確実な事実だろうと思った。
異物のままで結構だったが、生活空間を与えられている以上は祖父に対し、これ以上の精神的負担をかけたくはないのだと思い、動いた。

「…」


何が恐怖心を抱かせているんだ?
愛想よく振る舞っているつもりだ。家族に対しては。
暮らすスペースを与えられているから、頭を垂れて、そのように。
自慢の孫だと言える振る舞いではないのか?それ以上を求めるのか?
だとしたら変わり者か。

高慢ちきな高望みな爺さんだな。





朔初には、さっぱりわからなかった。