RECORD

Eno.110 紅坂 一途の記録

一途に咲く花 終

呆然としている俺に組の人が焼け残った物をくれた。
桐箪笥の中にしまってあった衣類は辛うじて残っていたらしい。
渡されたものは真っ赤な羽織だった。
それは泰が好んで羽織っていた派手な赤色。
菘さんが見かければパッと嬉しそうに顔を明るくする赤い羽織。
そう言えば二人とも赤い色が好きだったなと
遺った羽織に雫が落ちてしまわないように堪えながら受け取った。
きちんと受け取って、俺は進んでいかなければいけないような気がしたから。

俺の手の内に残ったのは幾らかの金と赤い羽織、そして渡せなかった簪だけだった。
それだけでも十分生きていけるだけの技量はもう身につけていたし、
周囲の人たちは皆優しい人ばかりで何かと世話を焼こうともしてくれた。
……けれど、もうこの地域に残っていたいという気持ちはなかった。
遠くへ逃げて忘れたいわけじゃない。ただ、進み続けていなければ苦しかった。
だから物を売り歩くという体で方々旅に出ることにした。
常に変わりゆく景色がきっと、苦しみを薄れさせてくれると思ったからだった。


「……そうして気づいたら北摩と呼ばれる土地に流れ着いていた
 ってことで俺の話は以上で終い!面白い話じゃあなかったでしょう。」


「えっ、もっと事細かに聞きたかった?端折ってる部分があるだろって?
 いやあ、あのなあお客さん。そうベラベラと話したいことじゃあ、ないんですよ。」


「それでも、どーしても聞きたいってんなら……
 特別料金でもとっちまいましょうかね〜?」



本当はまだ、あの人たちの死を引きずっている。
あの時から一体どれくらい経ったのか、もうわからない所まで来たけれど。
それでもあの人たちの笑顔を忘れられずに此処に居る。
あの日見た轟々と燃える無慈悲な炎を夢に見ない日は、ない。

「……。」


「……なあに、大丈夫ですよお客さん。俺は平気です。」



あの二人はきっと絶望を抱えて蹲ることを許してはくれない。
……いや、泰は意外と話のわかる男だったから何も言わないでくれるかもしれないが。
菘さんはきっと、いいや、間違いなく頬に平手打ちをお見舞いするような人だ。

「……ちゃんと生きていかなきゃならねえってことだけは
 きちんと理解できてますよ。……ね。姐さん、兄貴。」