>>1174042
「……ごめんね。わたしもね、
兄さんに内緒にしてたこと、他にも、ある」
「お母さんが死んじゃって、叔母さんの家に預けられて、
……わたしのこの体質のせいで、
叔母さんが、どんどん、やつれていったこと」
兄さんの言う通り、両親が既に神秘と関わりがあったなら
両親がそうならなかったのだって、今なら納得ができる。
その両親がいなくなって、
そうして初めて、萌花は本当の"普通"を知った。
「覚えてるかな。
高校に進学するのに、ひとりぐらししたいって、
兄さんに相談をしたの、わたしからだったんだよ」
厳密には、きっと、「してみたい」って言い方をしたけど。
本心なんて、叔母の元を早く離れて解放してあげないとって
そんな、一心だったのだ。
でもそんなこと、言えなかった。
幼い頃からこの体質を知ってる兄さんも、
これは"普通"だって、思っていると思ってたから。
▽
RECORD
⋆*ꕤ︎︎ 息継ぎ
お母さんが亡くなって、
父方の叔母さんの家に住むことになった。
お父さんのことは本当によく覚えていない。
でも、写真の中のお父さんによく似た、
やさしい顔つきの女の人だった。
それが、青白くやつれるまで、1年と保たなかった。
それから更に1年と少しを共に過ごした。
その間も、一度も責めるような言葉を受けたことはない。
「うん」
「わかってる」
そうせずにいてくれた理由が、
やさしさからくることだということくらい。
そしてそれに報いるためには、
得たマイナスをせめてゼロに戻さないと。
「……えへへ」
立っているのは、薄氷の上。
いつ壊れてしまってもおかしくないと思っている。
喪失というものはそれくらい身近にあるということを、
よく知っている。
そのなかでも、いちばんおおきな、
母との別離を皮切りに喪失したものがあって。
それをずっと、
自分に求めている。
何にも秀でていなくたっていいから、
ただ、"普通"の人でいることを。
得てしまったマイナスを、ゼロに戻すために。
―――それなのに。
>>3649893
「………………」
考える。どうだったか。
「信じる理由はありませんでしたが」
「疑う理由もそんなになくて」
「なんとなく」
「そうなんだなあ、って」
「思ってた気がします」
というより。サンタがなにか。いまいち分かってなかった、ような気もするけど。
「なんか」
「赤い服の人が……家にいるなあ、って」
今考えると、変な話ですね。と。
小さく。小さく笑った。
>>3650529
その言葉に、様子に、つい。
「あはは」
萌花も、あわく、小さく笑う。
「なんか」
「清士郎さんっぽい、です」
これまでに嵌った新しい前提と。
今語られ浮かべられた幼少の姿が、
それはそれで、また、かちりと嵌る。
やっぱりそれが、なんとなく、
本当になんとなくなのだけれど、少し嬉しい。
いや。
「……安心しました」
嬉しい、より適切な言葉を見つけた気がする。
この落ち着いた心地に、名前をつけるなら。…多分。
拘らなくてもいいのかもしれないって
少しでも思えてしまう時間がある。
>>5195083 >>5192530
「それは……」
「よかった、です」
止まった足が動き出す。
楽しかった記憶が、祭りのあとの静けさが、
もう少しだけといっていた。
だけど、あの時間だって大切なお祭りの思い出で、
そこに優劣なんてない。
だから、足先が向かう場所って、もう決まってしまった。
川のせせらぎが聞こえてくる。
水辺はやっぱり、いくらか涼しくて。
……どこか、落ち着く心地がした。
そこだけは、祭りのあの日とおんなじだった。
「ここも、静かですね」
そのことが少し、うれしかった。
座れそうな場所を探して、ゆっくりと、腰を下ろす。
その、落ち着いた心地に、
名前を つけるのなら。




