Eno.241 ひとつの星 - シマナガサレ

■ Eno.241 ひとつの星

犬は、帰るべき場所に帰った。

STATUS

100 / LIFE

脱出 / STATE

ICONLIST

PROFILE

ACTIVITY
2022-08-18 22:33:32
時計を使いました!
2022-08-18 22:29:51
*.は船に乗り込みました。
2022-08-18 22:25:31
コイントスをしました。
2022-08-18 22:00:01
時間が経過したようです。
2022-08-18 21:57:05
叫びました

 この島に漂流されてから七日目に、救助隊の船がやってきた。犬はそれに乗船すると、救助隊員に、荷物検査を受けることとなる。
 その際、犬が所持していたのは、背中に背負っているリュックだ。
 リュックの中を開いてみると、おもちゃ類、時計が入っており、財布があった。
 更に、財布の中を覗いてみると、入っていたのは、二十四枚の一万円札と、小銭、免許証だ。免許証に記載されている住所まで、 犬はあっという間に送られた。

 潮のにおいがする。海の上に船がたくさん並んでいて、やがて、犬にとって見慣れた街が見えた。
 犬がたどり着いたのは、岩手県大船渡市。十年以上も前に発生した、大規模発生地震の被害にあった場所でもある。
 そこへ、救助隊に連れられた犬は、村上セイコの自宅の前で立っていた。

 村上セイコは、犬の飼い主だ。高齢による病、で、夜中に海へ、犬を連れ出した。波に攫われて以来、姿を誰にも見せていない。誰も気づかずに。家にも、いなかった。

 そんな村上セイコの家の前で、五時間ほど待機している犬がいれば、さすがに近所の住民から通報されてしまった。高齢者と医者が並ぶ街では、引き取り先を探すのは困難だというのに。
 やがて犬は、警察に保護された。

 涼しい潮風が吹いている。夕陽に照らされた、秋の虫が囁くころ。
 犬は、一人のおまわりさんに連れられて、小さな交番にたどり着いた。
 犬が所持していた免許証から、『村上セイコ』の自宅を調査したのちに、警察署は高齢者の”迷子”の捜索にあたっている。これはおまわりさんにっては、”慣れてしまった”ものだけど。
 
 ご近所のおばさんが、困った様子で交番にやってきた。

「お財布を無くしてしまったの」

 困りごとを聞いたおまわりさんが、おばさんを迎えようとすると、犬は突然、おばさんのにおいを嗅いだ。おばさんも当然、驚いた。
 すると、犬は外へ走り出し、おまわりさんは慌てて犬を追いかける。犬の鼻先には、スーパーのレシートと一緒に財布があった。ここは、スーパーの駐車場だ。
 おまわりさんは、犬に目線を合わせるようにしゃがんで、こう言った。

「君は、立派なおまわりさんっちゃなぁ」
「わん!」

 犬は誇らしく笑うのだから、おまわりさんも大きく笑った。



 数か月経過しても、犬を引き取る連絡がこない。『村上セイコ』の行方さえも。
 リュックの中身は他にないのかって? ああ、連絡先がたくさん書いてある紙はあったよ。なんべんなんべんも、かけてみたっちゃ! でも、連絡しても、”つながらなかった”よ。繋がらない以上は、お天道さんもかなわにゃ。それに、この犬には行先が多すぎる。信頼されていたのも、納得だべ、

「ねえあんこちゃ~ん! おやつ食べない?」
「え~ん、ぬいぐるみ……、あんこちゃんに探してほしいの」
「あれ? シリウスさんでしょう? うふふ」
「名前、ふたつあるの? へんなの~! あはは!」

「嗚呼、もう、犬で十分だっちゃ! 犬! まて~!
 高橋さん! お嬢ちゃん! そこにかけてまってて!」

 この街で、つながりと笑顔が増えた気がする。
 今も犬は、岩手県大船渡市の、一番星だ。

END

あんこおよびシリウスは、今後の参戦はありません。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

▼連絡先▼
Twitter@chcrollHigashi

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