RECORD
Eno.340 月待 よすがの記録
――うん、いいね。また資料が増えた。これで10個
……ところどころヘンなものも混じってしまったけれど……。えり好みしていたら100個なんて夢のまた夢だしね。大丈夫。ちゃんと集めるよ。
……? そんなに不思議かな。こっくりさんや合わせ鏡、ひとりかくれんぼなんかと同じでしょう。ただそれらより準備が大変なだけで……。
……あぁ、たしかに。僕はね、別に神秘が一等好きな訳じゃない。神秘しか愛せないだけ。君も知ってるように。
うん。そうだね。それも結局、今は違うのかも。
霜月雪乃は道しるべになってくれた。
卵が先か鶏が先かと言うけれど……彼との関係に関しては鶏が先なような気がする。
初めて手に入れた縁を、僕が「先輩」と呼んでいる。
今も昔もずっとあの神秘が好きだよ。
彼の神秘を知ったから、きっと僕は神秘に恋をした。
不藤識はそれでも月待よすがを知りたいと言ってくれた。
単純な話、等価交換の関係値が心地良かっただけではある。
それ故に三度ほど別れを切り出すタイミングを逃したのは墓まで持っていこう。
どうせもう離してあげるつもりはない。可哀想にね。
志瀬津拳悟は神秘以外を楽しめるようにと教えてくれた。
前の自分に戻れるようにすることを諦めないと言っていたのを覚えている。
今なら少しだけ分かる。そんな理由で言ったんじゃないんだろうな。
僕は今、適切な距離感で彼と接していられているかな。
秦秋葉は認識する名をくれた。
人が、自分が少なからず好きなのだろうと思う。「覚えていてほしい」は自分にはあまり馴染がない感情だ。
だから、『名前をつける』ことの大切さを初めて教えてくれたのは彼女だったと思う。
牙ヶ崎剣はその不完全性を利用してくれた。
僕は彼女の希死念慮の奥の気遣いを『気持ち悪い』と言って、考えを重ねて作ってくれた料理を『分からない』と言った。
それを飲み込んだうえで、僕の神秘への興味を寄る辺にしてくれた彼女は――優しい人だと思った。
界淵征は何度でも教えてくれると言ってくれた。
彼の言葉はいつも、欲しいところに落ちてくるような気がした。
自分で言うのも何だが月待よすがはひねくれている。それでも、彼の嫌いなところが見当たらない。不思議だ。
浮季草斂華は分からないから友達になりたいと言ってくれた。
神秘のせいで自分だけが世界から切り離されたような感覚は僕にもある。
だからこれは傷のなめ合い。お互いを理解し尽くすことは出来ないまま、隣にいれたら好いと思ってしまう。
阿久比正義は触れて確かめることを許容してくれた。
不正解を不正解と言ってくれるところが酷く憎らしくて何より好き。
僕が最初に彼にした口付けも不正解なのだろう。これからもずっとそうして僕を否定してほしい。
七思議ナナシは分からないことを許してくれた。
意趣返しに施された口付けが今までのどんなものより心躍ったのだ。
そういった僕の異常を、分からないことを受け入れてくれたところが君のどうしようもない怪奇性であるのに。
月待よすがの、人としての欠陥を受け入れてくれたひとたちがいる。
残念ながら他人が好きになればなるほどその人の顔が分からないことが苦しいから、僕は僕を君にあげた。
あぁ……まあ、彼は例外。うまく利用できれば僕ももっと人間らしくなれるかな。
閑話休題。とにかく、僕が一番愛せるのが神秘であることには変わりない。
百物語、君は僕の代わりにしてきたんでしょう?
あれはさ、本来正式な手順を踏んで霊障を起こす儀式なんだよね。
灯りは青い紙で覆ってやる必要があるし、新月の夜に語ることも大事だ。
そういった少し面倒な手順は……まあ、再現性が取りにくい。
実現しにくいほど、儀式というのは神秘を帯びる。"偶然"ではなく、畏怖と祈りを以て顕現させることになるからね。
君の鏡の神秘だって同じだろう。鏡の前で、三度願う。名を以て契約とし成り代わる。
偶然取り得る手段にはなりにくいからこそ君は自己像幻視として定義される。
実に仕組みとして分かりやすい。美しい神秘とはこうあるべきだろう。
だからこそ、僕はこの百物語を完成させるよ。神秘を解体し、暴いて、保存する。
そうして作り上げたものが混ざり合って、新たに神秘を帯びるなら一体どんな形になるんだろう。
僕はね、autoscopy。とってもわくわくしてるんだよ。
神秘が月待よすがに成れないなら、僕が神秘を利用する。
だからありがとう。僕を楽しく過ごせるようにしてくれて。

――踊り場の姿見、少女の独り言より
百物語①
――うん、いいね。また資料が増えた。これで10個
……ところどころヘンなものも混じってしまったけれど……。えり好みしていたら100個なんて夢のまた夢だしね。大丈夫。ちゃんと集めるよ。
……? そんなに不思議かな。こっくりさんや合わせ鏡、ひとりかくれんぼなんかと同じでしょう。ただそれらより準備が大変なだけで……。
……あぁ、たしかに。僕はね、別に神秘が一等好きな訳じゃない。神秘しか愛せないだけ。君も知ってるように。
うん。そうだね。それも結局、今は違うのかも。
霜月雪乃は道しるべになってくれた。
卵が先か鶏が先かと言うけれど……彼との関係に関しては鶏が先なような気がする。
初めて手に入れた縁を、僕が「先輩」と呼んでいる。
今も昔もずっとあの神秘が好きだよ。
彼の神秘を知ったから、きっと僕は神秘に恋をした。
不藤識はそれでも月待よすがを知りたいと言ってくれた。
単純な話、等価交換の関係値が心地良かっただけではある。
それ故に三度ほど別れを切り出すタイミングを逃したのは墓まで持っていこう。
どうせもう離してあげるつもりはない。可哀想にね。
志瀬津拳悟は神秘以外を楽しめるようにと教えてくれた。
前の自分に戻れるようにすることを諦めないと言っていたのを覚えている。
今なら少しだけ分かる。そんな理由で言ったんじゃないんだろうな。
僕は今、適切な距離感で彼と接していられているかな。
秦秋葉は認識する名をくれた。
人が、自分が少なからず好きなのだろうと思う。「覚えていてほしい」は自分にはあまり馴染がない感情だ。
だから、『名前をつける』ことの大切さを初めて教えてくれたのは彼女だったと思う。
牙ヶ崎剣はその不完全性を利用してくれた。
僕は彼女の希死念慮の奥の気遣いを『気持ち悪い』と言って、考えを重ねて作ってくれた料理を『分からない』と言った。
それを飲み込んだうえで、僕の神秘への興味を寄る辺にしてくれた彼女は――優しい人だと思った。
界淵征は何度でも教えてくれると言ってくれた。
彼の言葉はいつも、欲しいところに落ちてくるような気がした。
自分で言うのも何だが月待よすがはひねくれている。それでも、彼の嫌いなところが見当たらない。不思議だ。
浮季草斂華は分からないから友達になりたいと言ってくれた。
神秘のせいで自分だけが世界から切り離されたような感覚は僕にもある。
だからこれは傷のなめ合い。お互いを理解し尽くすことは出来ないまま、隣にいれたら好いと思ってしまう。
阿久比正義は触れて確かめることを許容してくれた。
不正解を不正解と言ってくれるところが酷く憎らしくて何より好き。
僕が最初に彼にした口付けも不正解なのだろう。これからもずっとそうして僕を否定してほしい。
七思議ナナシは分からないことを許してくれた。
意趣返しに施された口付けが今までのどんなものより心躍ったのだ。
そういった僕の異常を、分からないことを受け入れてくれたところが君のどうしようもない怪奇性であるのに。
月待よすがの、人としての欠陥を受け入れてくれたひとたちがいる。
残念ながら他人が好きになればなるほどその人の顔が分からないことが苦しいから、僕は僕を君にあげた。
あぁ……まあ、彼は例外。うまく利用できれば僕ももっと人間らしくなれるかな。
閑話休題。とにかく、僕が一番愛せるのが神秘であることには変わりない。
百物語、君は僕の代わりにしてきたんでしょう?
あれはさ、本来正式な手順を踏んで霊障を起こす儀式なんだよね。
灯りは青い紙で覆ってやる必要があるし、新月の夜に語ることも大事だ。
そういった少し面倒な手順は……まあ、再現性が取りにくい。
実現しにくいほど、儀式というのは神秘を帯びる。"偶然"ではなく、畏怖と祈りを以て顕現させることになるからね。
君の鏡の神秘だって同じだろう。鏡の前で、三度願う。名を以て契約とし成り代わる。
偶然取り得る手段にはなりにくいからこそ君は自己像幻視として定義される。
実に仕組みとして分かりやすい。美しい神秘とはこうあるべきだろう。
だからこそ、僕はこの百物語を完成させるよ。神秘を解体し、暴いて、保存する。
そうして作り上げたものが混ざり合って、新たに神秘を帯びるなら一体どんな形になるんだろう。
僕はね、autoscopy。とってもわくわくしてるんだよ。
神秘が月待よすがに成れないなら、僕が神秘を利用する。
だからありがとう。僕を楽しく過ごせるようにしてくれて。

「―― ひとつ、暴こうか」
――踊り場の姿見、少女の独り言より
