そのまま、ゆっくりと天に昇っていく。
慣れ親しんだ景色が少しずつ離れていく事に
一抹の寂しさは感じたけれど。

そこにもうあの子が居ないのなら
留まる程の未練はないから。

「Yla　Yla　」

教えてもらった歌を高らかに歌いながら、
在るべき場所に帰ろう。明日からも一人だけを見るために。

Eno.76 アムニアストゥーラ　-fin-

その背を見送る竜は、晴れやかな表情で。
まるで明日も会えるかのように愛しい人を見送って。

「ふふ、いーっぱい歌うの。
しあわせな時も、辛い時も、あなたを想うために」

何だか照れくさくなって頭を掻くけれど、
あなたからの拍手は嬉しいもので。

「……もう傾いて来ちゃったね、お月様」

ラウンジの窓から中天を過ぎた月を見る。
完全に離れてしまう前に最後のお願いをしよう。

竜のヴェールが広がって、二人を包み込む。

あなたの歌に追いつく途中
感じる視線が一つ増えた事にふと気付いた。

足元のちいさな目の方を向けば
空いている方の手をひらひらと振る。

それは太陽と月と、星の神。
もうその身体には月しか残っていないし

それすらも今から捧げるのだけど。

「……えへへ、ばっちりなの！
もう絶対忘れたりしないの。何なら毎日歌うの」

にぱっと笑みを漏らす。
すぐに諳んじて、大丈夫な事を伝えよう。

優しい歌。あなたの歌。

握られたままの手とも、伝わる心とも違うぬくもりが
竜の心をぽかぽかと温めていく。

「Y……la　Y　la　」

あなたを追いかけるような旋律は
ちょっと拙くて、でも楽しそうな響きをもって。

長い生の中で一番必死に歌を覚えようとしている。
覚えた音が増えるたびに音が近づく。まるで鬼ごっこ。

「……あ、そうだった。
聞きそびれたままお別れになる所だったの」

あなたの歌う歌を、自分も歌ってみたい。
離れていても繋いでいてくれるような気がするから。

「折角だから聞きたいな」

ゆらゆらと期待するように揺れる尻尾。
あっというまに聞く姿勢。